朝、目を覚ましたら隣のベッドに小鳥の姿は無かった。シンと静まり返った部屋。これまで暮らしてきた301号室と何ら変わりのない間取りなのに、広く、物足りなく感じる。
「チェっ」
ボサボサの頭を掻きながら洗面所に向かう。小鳥の歯ブラシからは水滴が垂れ、まだほんの少し前までここに居た事を示している。青い歯ブラシに歯磨き粉をニュルりと絞り出し、口の中に放り込む。ガシガシと歯を磨きながらリビングに戻り、小鳥のベッドに触れてみるとまだ温かかった。
(うおっと)
口の端から涎が垂れそうになり慌てて洗面所へと走った。
もしここに小鳥が居たら
『濡れちゃいます!変な事しないで下さい!』
などと小言を言われただろう。その賑やかさが無い。ガランとした空虚を背に顔を洗いブルブルと振る。顎に手を伸ばした。
(ひでぇ顔、してるわ)
目の下が少しばかり黒ずんで見える。これは、姉ちゃんに不摂生だとか自己管理が出来ていないとか、嫌味の一つも言われるに違いない。
「マジ、俺はアホか」
自分の阿呆さ加減に気分は急降下だ。10歳も年下の恋人の発言に気分を害したからと、何をあからさまに不貞腐れて寝てしまったのか。
「余裕、無さすぎだろ」
壁に掛かった時計を見上げるとまだ6:30。コーヒーでも飲むかとヤカンで湯を沸かした。シュンシュンと上る湯気。振り向けば食器棚の上から二段目、同じ柄でグリーンとオレンジのマグカップが隣り合わせに並んでいた。白く丸いフォルム、黒いくちばしと羽根。
「俺がシマエナガとか、まじありえねぇし」
思わずの苦笑いに口の端が歪んだ。青椒肉絲の具材を買った
(それにしてもこんな朝早くに何処に行ったんだよ)
(市役所、まさかな)
近江隆之介はガスコンロの火を止めるとグレーのルームウェアを脱ぎ、ドラム型洗濯機の中に放り込んだ。