目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第67話 タイタンの力

 エントは立ち止まる様子もなく、ミシミシと軋む音を立てながら近づいてくる。アッシュールで見た時よりも大きい。城の2階部分くらいまである。


 「何やら心当たりのある魔力を感じたと思ったら、貴様か。久しぶりだな」


 タイタンに声をかけた。


 「前回は、お前が頼りなさすぎてうまくいかなかった。今度こそアフリートをいただくぞ。ついでにお前と、その腹の中にいるシャナもいただこうか」


 タイタンは一歩も引く気配がない。むしろヨタヨタと近づいた。エントはヒャヒャヒャと空気が抜けるような笑い声を立てた。アフリートは怒った顔で老人をにらみつけながら、言った。


 「誰だ、こいつを掘り出してきたのは。二度と出てこないように埋めておいたのに」


 悪かったな。復活させたのは俺たちだよ。


 「アフリート!今度こそワシの物になってもらうぞ!」


 タイタンは手を差し伸べた。アフリートは一歩、後退する。接触すれば、支配下に置かれる可能性があるのを知っているのだろう、炎を出さない。


 「お前のやり方はわかっている。魔法は使わん。叩き潰すまでだ」


 エントは背筋を伸ばした。デカい。


 「爺さん、アフリートを先になんとかするんだ」


 トウマが言い終わらないうちに、エントが腕を振り上げて攻撃してきた。タイタンを抱えて逃げ出す。ズドン!と大きな音を立てて、地面をえぐった。しまった。防御魔法をみんなにかけていない。その時間もなかった。「爺さん、助けてくれ」と言いながら高速呪文を唱えた。


 「ホホッ、手間のかかることをしよる!」


 タイタンが両手をパンと打ち鳴らすと、その合わせ目から黒い霧のようなものがあふれ出した。さらにぐるっと手を回すと、両手の間に球体が出現した。


 光っているが、黒い。墨を塗ったガラス球が発光しているように見える。呪文を唱え終わった。体内から突き上げる衝撃を感じて、思わずウッと声が出た。


 これが万物の源の力か?すごい勢いで防御魔法を放出する。誰までカバーできたかわからないが、この勢いなら相当離れたところにいるアイシャまでカバーできたのではないか。城の影にいてよく見えてないが、アイシャは突っ立っている。とても戦闘前の状態には見えない。


 「何か攻撃魔法がほしいのう。想像もつかないほど強化してやるぞ」


 背中でタイタンが言った。わかっている。だが、まだ迷いがあった。今、ここで攻撃魔法を使えば、タイタンが使えるようになる。アフリートを手に入れた後、俺たちを攻撃してこないという保証はない。


 迷っている間も、エントの攻撃は続く。呪文を唱えて止まっているところを狙われた。太い腕でなぎ払われた。ドシン!という衝撃とともに体が吹っ飛ぶ。ゴロゴロと芝生の上を転がって、いつ止まるのかと思ったところでようやく止まった。


 顔を上げると思った以上に離れてしまった。エンツォがガーディアンスティックを地面に突き立てたところだった。ズドン!という大きな音がして、地面が揺れる。


 「ホホッ、土のエレメントではないか!」


 すぐ隣でひっくり返っていたタイタンが喜んでいる。エントは足を取られてよろめいた。いいぞ、足止めしてくれ。


 向こうではトウマとつみれがアフリートを追い詰めようとしているが、アフリートが炎を吹き出しているので近寄れないようだ。とりあえずタイタンをアフリートのそばまで連れていかないと。これだけ離れてしまっては、迷っている暇はない。


 風の矢を使う。


 「爺さん、援護してくれ!」


 言うと同時にエントに向かって発射した。


 「ほほう、これもいい!」


 万物の源の魔力が体内に流れ込んでくる。突き上げる衝撃で目玉が飛び出しそうだ。自分が射出する魔法の威力に耐えきれず、指先が裂けて血が飛び散った。信じられないくらい太く長い矢が飛び出す。もう矢じゃないな。大砲だ。しっかりエントを目視していた。当たれ!ガガッと音がして、エントの動きが止まった。


 エンツォがもう一発、地面に突き立てた。ドスン!先ほどの何倍かというほど地面が揺れた。立っていられずに地面に手をつく。だが、チャンスだ。起き上がると、痛みに耐えて風の大砲を連射した。


 反動で肩が抜けそうだ。両手で発射するのをやめて、右手首を左手でつかんで保持して、右手から打ち出す。これでも風の矢の何倍もの威力を発揮することができた。動きの止まったエントの体を削っていく。俺の後ろから無数の風の矢が降り注いだ。タイタンか?バキバキッと枝をへし折る音が響く。エントはグアッという叫び声のような音を出した。


 「エント!」


 アフリートの声だ。炎がひと筋、降ってきた。空中でバッと広がって落ちてくる。拳より少し小さいくらいの火の玉が降ってきて、腕や背中に当たった。タイタンの支援を受けた防御魔法をまとっているから無事だったものの、それがなければ全身に穴が開いていたところだった。


 「木偶の棒が、邪魔じゃ!」


 タイタンが風の矢を次々に打ち出しながら、エントに近づく。「おい、ワシをおぶっていけ」と言うので、また背中に担いだ。その間も絶えず風の矢を射続ける。俺に打ち出させたのと同じく、これはもう矢ではない。大砲だ。エントに当たるたびにガツンガツンと大きな音がして、樹皮をもぎ取っていく。ついに左腕に見える太い枝が落ちた。


 「削りくずにしてやるわ!」


 空気が振動するほどの威力で、大木を削っていく。みるみるうちに背中に見えた部分が削り落とされ、生木が飛び散った。一人で木の精をやっつけてしまいそうだ。だが、待てよ。こいつ、マリシャのお兄さんを乗っ取っているんじゃなかったか?お兄さんを助けなくてもいいのか? 


 そう思ってアフリートの方に目を移すと、まだトウマたちは捕まえきれていないようだった。浮遊しているので、エンツォの魔法は効かない。つみれの邪眼は効くだろうか?アフリートの方が魔法としては格が上っぽいので、難しそうな感じがする。


 と、上空から何か降ってきた。大きな斧で殴られたような衝撃があって、一発で防御魔法が消滅した。なんだ?何を食らった?


 「こりゃ、まずい!」


 タイタンが風の矢を止めて防御魔法を掛け直す。早い。その間にエントの向こう側に回り込んだ。こっちに行かないとアフリートが見えない。


 と、もう一発、頭上から来た。今度は感知できた。俺の風の矢と同じ原理だ。空気が斧のような形になって、頭上から降ってくる。誰かがどこかから振り下ろしている。すごく大きい。人間が扱うサイズではなく、一発で俺を真っ二つにできるほどの大きさだ。こんな巨大なものを振り回せるなんて、なんという魔力だろう。


 回廊の角からもう一人、相当な魔力を感じる人影が現れた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?