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第102話 エピローグ〜そして新しい冒険が始まる

 やあ、スカリー。久しぶりだね。また一段と背が伸びたなあ。もう追い越されてしまいそうだ。


 また髪を切ったの?式典があることはわかっていただろう。正式な場では髪を結うのが、ならわしだよ。悪いことは言わない。パパ似のきれいな髪をしているんだから、結えるように伸ばしなさい。


 で、何だってそんなに不機嫌な顔をしているの?どんどん美人さんになっていくのに、そんな顔をしていたら台無しだ。


 ドレスがきつい?いやあ、それは仕方ないんじゃないかな。そのタイプはそういうものだよ。いいじゃない。大人っぽくてカッコいいよ。真っ赤と言うより、少し抑え気味の真紅がまたシックでいいね。スタイルがいいのはママに似たのかな。うんうん、いい、いい。ほら、だからそんな顔しないで。


 それよりほら見てよ、ボクのローブ!すごくない?縁の部分の刺繍とか、めちゃくちゃカッコいいでしょ。アレックスの手作りなんだ。えっ、うらやましい?自分もおばあちゃんが作ったドレスで式典に出たかった?スカリーのはムスラファンの最高の仕立て屋が作ったんだから、比べ物にならないよ。


 そういうことじゃない?


 そっか。アハハ…。そんなことより、前にした話はどうなったって?なんの話だったかな?新しいアクセサリーのことだっけ。ああ、待って、思い出した。15歳になったら冒険に連れて行くって話ね。


 え〜っと、パパとママは結局、なんて言っているの?ダメだって?それじゃあ、やっぱりやめといた方がいいんじゃない。いやあ、だからボクに相談したんだって言われてもね。お姫さまを勝手に連れ出したら、問題大ありでしょ。こう見えても一応、宮廷付きの魔術師だから。雇い主に逆らうわけにもいかないからね。アハハ…。


 ああ、怒って行っちゃったよ。せっかくの戴冠式なのに。アルアラムが苦労して手に入れた王位なんだ。大陸中に次のムスラファンの王様はこの人だって知らしめる式典なんだぞ。どれだけ大事なことなのか、あの子はわかってないみたいだ。


 全く、小さい頃はかわいかったのに、大きくなるにつれて扱いにくくなっていくよ。我が強いのは誰に似たんだろう。


 …。


 やっぱりあの人かな。噂をすれば本人が来た。あっ、スカリーに捕まったぞ。どこに行くつもりだ。追いかけた方がいいかな。


        ◇


 ああもう、胸が苦しい。


 仕立て屋は「よくお似合いですよ」なんて言っていたけど、全然似合ってない。そもそもボクの好みじゃないよ、こんな胸を強調するようなドレスなんて。パパもママも15歳になったんだから、もう少し淑女らしい服を着なさいって言うけど、淑女ってなんだよ。自分たちの子供なんだから、淑女ってタイプじゃないことくらい、とっくの昔にわかっているだろ?


 それとも他のきょうだいにかまけて、やっぱりボクのことなんか見てなかったのかな。とにかくこんなヒラヒラのドレス、柄じゃない。姉さまや妹たちには似合うかもしれないけど、少なくともボクはこんなんじゃない。


 だけど、有無を言わさずこれに決まってしまった。ママは「大事な式典なんだから正装しなさい」って言ってたけど、知ってるんだぞ。ママだって若い頃は、ずっとズボンだったってこと。


 なのに、なんだよ!ボクが姫だから?だからこんな格好しないといけないの?胸はきつくて苦しいし、足元はふわふわして歩きにくい。それに、このヒール。かっこいいけど、なんて歩きにくいんだ。


 そんなことより、今日は本当にマリシャにがっかりさせられた。薄々、そうなんじゃないかとは思っていたんだ。本当は冒険に連れて行ってくれる気がないんじゃないかって。小さい頃から「スカリーが大きくなったら一緒に冒険に行こう」とよく言っていた。正直、うれしかった。キサナドゥー屈指の魔法使いに、旅のお供に指名されるなんて、名誉なことだからね。


 でも、だんだん言うことが変わってきてさ。「来年ね」「10歳になったらね」で最終的には「15歳になったらね」って。一国の姫であるボクを連れ出せるなら、この人しかいないと思っていたから、ずっと頼りにしていたんだ。パパとママは「ダメだ」って言うしさ。


 つい先日、やっと15歳になったんだ。誕生パーティーの日はお客さんが多すぎて話す機会がなかったし、その後も会う機会がなかったし、今日こそ聞かないとって思っていたんだ。そしたらなんだよ!パパとママがダメって言うんならダメって!パパとママがダメだと言っても連れ出せるのが、宮廷付き魔術師という立場なんじゃないの?もうホント、マジでムカつく!


 人がいっぱい来ているのも嫌だ。基本的に人混みが嫌いなんだ。きょうはみんな着飾ってきているから、化粧やお香や、それに料理の匂いなんかも混ざって頭が痛くなりそう。とっととここから逃げ出そう。式典なんて知らない。あっ、オジキが来た。そうだ、こうなったらオジキに頼もう。おーい、オジキ!


 「おお、見間違えたぞ。随分とレディらしくなったな」


 何言ってんだ。そんな柄じゃないってことはよく知ってるだろ。オジキ、ちょっと来て。ボクの話を聞いてよ。


 手を引いて、大広間から連れ出した。


 「俺、きょうは証人をやらないといけないから、これからお前のオヤジにあいさつに行かないといけないんだけど」


 そんなの後でいいよ。早く、早く!


 小さい時から、やけに自分の周囲には大人が多いなと思っていた。兄さんや姉さんや弟や妹たちの周りもそうだけど、ボクだけ周りにいる大人の雰囲気は、ちょっと違った。普通は家庭教師だったり、護衛だったり、宮廷に仕えている大人が取り囲んでいるものなのだけど、ボクの周りにいたのはオジキだったり、魔法使いだったり、守護者だったり、あとは流しの医者とか、とにかく宮廷っぽくない人がいた。


 その人たちが、忙しいパパとママの代わりに育ててくれた。パパとママを含めて彼らがとある冒険のパーティーで一緒だったと知ったのは、だいぶ大きくなってからだ。そして、ボクもその冒険に無関係でなかったと、のちのち知ることになる。


 オジキのことは、ずっと宮廷の養育係だと思っていた。それくらい、ずっとそばにいたんだもの。足が悪くて、少し引きずって歩いている。ボクの護衛であり、勉強の先生であり、武術の師匠だ。男親という意味ではパパよりも長い時間、一緒にいた。いろいろなところに連れて行ってくれて、たくさんのことを教えてもらった。


 すごく尊敬しているんだ。優しくて賢くて、そして何より体が不自由なのに、めったやたら強い。ボクのことをあまり否定しないのもいい。それでいて人に迷惑をかければ、きちんと叱ってくれる。オジキの言う通りにしていれば大体、間違いがなかった。


 ずっとオジキと言っているけど、名前はトウマって言うんだ。ボクの本当の父親みたいにずっとそばにいるから、オジキって呼んでる。それがあながち間違いではなく、実は宮廷の職員でもなかったと知るのは、これまただいぶ後になってからだ。


 マリシャは宮廷付きの魔法使いだ。こちらも小さい時から、よく遊んでもらった。年の離れた姉さまと言う感じかな。キサナドゥーにはチンケな魔法使いがたくさんいるけど、マリシャは違う。なにしろほら、あの胸につけているブローチを見てよ。よく見て。中で何かがメラメラ燃えているでしょ。あれはアフリートなんだ。炎の精霊を飼っているなんて、すごくない?尊敬しちゃうよね。


 実際にすごい炎の魔法を使うし、あんな本格的な魔法使い、他に見たことがない。知識も豊富で、いろいろな話を知っている。それをとても面白おかしく話して聞かせてくれるんだ。


 冒険の話を最初にしてくれたのも、マリシャだった。そこに若い頃のパパとママも出てきた。だから、2人に聞いたんだ。そうしたら、パパが「ついに打ち明ける時が来た」と言って、日没都市に行った話をしてくれた。トウマがボクの前世のパパだったと知ったのは、その時だ。道理で本当のパパみたいに思えたはずだよ。


 小さい頃から姉さまや妹たちと違って、ボクは女の子っぽくなかった。部屋の中でままごとをするより外遊びが好きだったし、馬に乗ったり、武術の稽古をするのが大好きだった。前世が男の子だったと知って、やっぱりなと思ったよ。冒険も大好きだった。オジキは時々、おばあさまが住んでいるお城…トリスタンって言うんだけど…の近くにある家に行く。実は、そこが本当の家らしい。


 なだらかな丘の中腹にある小屋で、何もない。でも、何もないのがいいんだ。「丘の家」と呼んでいて、そこに行くのが大好きだった。今でも好きだよ。よく泊まりがけで連れて行ってくれた。薪で火を起こして、自分で料理をするんだ。薪だって、自分で山に入って拾ってくるんだ。弓矢を持って鳥を狩りに行ったり、川で釣りをしたりした。大冒険だった。


 キサナドゥーにいたら絶対にやらないようなこと、宮廷でぬくぬくと暮らしている他のきょうだいたちが絶対にやりそうもないことに挑戦するのは気持ちがよかった。オジキがそばにいたとはいえ、自分の力で生活するのは大冒険だった。楽しくて楽しくて、小屋にずっと住むとだだをこねて、よくオジキを困らせた。


 だから、マリシャから日没都市の話を聞いて、いつか一緒に行こうと言われた時には大興奮した。毎日あんな生活をしながら、見たこともないところに行くんだ。


 宮廷にはなんでもある。ボクが「水がほしい」といえば、誰かが持ってきてくれる。何不自由ない暮らしだ。だけど、それはとてもつまらない。自分に必要なものは、自分で取りに行く。なければ考えて作り出す。別の方法を探す。ボクは、もっと自分の力で生きてみたい。


 オジキやマリシャの話を聞いて、自分だけで生きていく力を身につけておかないと、いざという時に困ると考えていた。いざという時って、どんな時って?それは、ほら。あれだよ。なんかあるじゃん。いざって時が。


 それに、知らないところに行って、新しいことを見たり聞いたりするのは、すごく楽しいことだ。丘の家に行くのが好きなのはそういうことだし、トリスタンに行くのが好きなのも、おばあさまからワクワクするような昔話を聞けるからだ。冒険の旅に出れば、毎日がその繰り返しなんだ。想像しただけで、楽しくて躍り出しそうになる。


 だけど、パパとママは絶対に反対だった。


 ムスラファンの姫に万が一、何かあったらどうする。冒険なんて絶対にダメと言って、こっちの言い分は何も聞いてくれなかった。跡取りなら兄さまや弟がいるんだし、姉さまたちもいるんだし、気楽な三女は国の繁栄のために見聞を広める旅に出てもいいじゃない。だけど、パパもママも首を縦に振らなかった。


 だからマリシャを頼りにしていたんだ。パパもママもマリシャの言うことは聞いているみたいだし、マリシャが頼んでくれたら、許可してくれるかもしれないと思っていた。なのに…。


 「というわけだよ」


 一気にまくし立てた話を、オジキは黙って聞いていた。場所は宮廷の3階のテラスだった。キサナドゥーの街並みが一望できる、ボクが大好きなスポットだ。


 「それで、なんだ」


 オジキは組んでいた腕をほどくと、右手でこめかみのあたりを押さえた。今日は西域の正装をしている。白いジャケットに、ズボンも白くてフワッとしたゆとりのあるデザインだ。普段は紺色の東方の作務衣を着ているので、こういう洋装姿は珍しい。いつものオジキじゃないみたいで、新鮮だった。


 「マリシャの代わりに、俺からアルアラムとパインを説得してくれということか?」


 うん、まあそういうことだよ。


 「冒険って、どこに行くんだよ」


 そんなの決まってるじゃん。日没都市さ。オジキたちが話してくれたんだぞ。すっごい楽しそうな冒険譚を。あんな話を聞いたら、誰だって行きたくなるじゃないか。アッシュールの谷もこの目で見てみたいし、世界の果てだって見てみたい。日没都市の魚の蒸し料理だって食べてみたい。全部、オジキたちがボクに吹き込んだんだ。


 オジキは深いため息をついた。


 「めちゃくちゃ遠いぞ。準備だけでも大変だ。それに行ってどうする。俺は目的があって行ったけど、お前には何かあるのか?」


 あるよ、あるある。大ありだ。


 「みずほさんに会いに行くんだ」


 そうだ。ママは全然、ボクのことを理解してくれない。だけど、オジキと同じく前世でボクの母親だったみずほさんなら、わかってくれるだろう。オジキはしばらくあごをさすっていた。考え事をしている時の癖だ。


 まあ大体、オジキはダメとは言わない。よほど危ないことは許してくれないが、大体のことはやらせてくれる。もちろんそばにいて、危ないと思えば止めてくれる。なんでもやってみろが、オジキのやり方なんだ。


 「丘の家じゃダメなのか?まずはあそこまで一人で来てみたらどうだ」


 子供扱いするのはやめてよ。ボクはもう15歳なんだ。あんなところ、馬でひとっ走りじゃないか。そんなプチ冒険じゃないんだよ。プチなら散々、小さい頃からやらせてくれたじゃない。ボクがやりたいのは、本物の冒険の旅なんだ。熱弁した。


 「王都の中ことしか知らない姫なんて、外に連れ出されたらすぐに死んじゃうよ。もっと冒険して、いろいろなことを知って、タフにならないと」


 オジキはプッと吹き出して笑った。そんな簡単に死なないと言いながら、くすくす笑っている。


 「タフになる必要があるのかどうかは別にして、俺は王都の外のことも、だいぶお前には教えてきたつもりなんだがな」


 口では反論しているけど、反対されている気はしなかった。テラスの下は宮廷の前の広場で、たくさんの来賓が式典前の自由な時間を楽しんでいた。まだまだお客さんが詰めかけてきている。アルバース叔父貴は来てくれるだろうか。パパとはいろいろあったから、来ないかもしれない。まあ、ボクなら行かない。気まずいからね。


 「おっ、見ろよ。シャウナが来たぞ」


 オジキがあごをしゃくった方を見る。テラスのすぐ下に、長い金髪の守護者がいた。手を振っている。シャウナに会うのは久しぶりだ。忙しい人で、ずっと西域の奥地に行っている。あまり大っぴらにはなっていないけど、実は日没都市探検のエキスパートだ。ボクの理想像。冒険することが仕事だなんて、マジでうらやましい。一体どうやって生活しているのかさっぱりわからないけど、とにかくうらやましい。長身の守護者が一緒だった。あれがエンツォだな。いやいや、ちょっと待って。ごまかされないぞ。


 「ねえ、オジキ。頼むよ。ボクだってどんどん歳を取る。ボヤボヤしているうちにどこかに嫁に行ってしまったら、大冒険する機会はなくなってしまうよ」


 お願い!と手を合わせた。歳を取るって、お前まだ15歳じゃないか。それに、お願いされてもなあと言いながら、笑っている。


 「今すぐじゃないとダメか? 日没都市に行くなら、それなりの装備とメンバーが必要だ。はい、じゃあ行きますかって行けるところじゃない」


 準備ができたらOKということ?


 「そういうことだ。俺だって、日没都市に行くために1年くらいかけて準備したんだから。まずはあっちの方面に詳しい人間を雇わないとな。シャウナは式典が終わったら、どこに行くつもりなのかな?砂漠に戻るのなら一緒に行ってもらえるんだが…」


 やった!話がわかる。それでこそオジキだ。飛びついて、ほおにキスした。


 「ありがとう!メンバーなら、心当たりがあるんだ!」


 オジキは照れ笑いしながらボクを抱き止めた。「まだいいって言ったわけじゃないぞ」と耳元でささやいた。


 「ダメだと言われれば言われるほど、やりたい気持ちがぐんぐん育っていく子だ。俺にはお前を止めることはできない」


 オジキはボクを下ろすと、右手の人差し指を立てて、ボクの鼻面の前で立てた。これは大事な話をする時の癖。よく聞きなさいというポーズなんだ。


 「条件がある。俺が一緒に行くこと。必ず言うことを聞くこと。絶対に無理しないこと。危ないと思ったら、すぐに引き返すからな」


 それくらい、お安い御用だ。ボクはもう一度、ありがとうの思いを込めてオジキを全力でハグした。


 「わかった。ありがとう、オジキ。じゃあ、また後で!」


 早く報告しないと。ずっと旅立ちを待っていた仲間がいるんだ。体を離して、駆け出す。


 「早く戻ってこないと、式典が始まっちまうぞ!」


 後ろからオジキの声が聞こえた。だけど、そんなの知ったこっちゃない。



 大広間を駆け抜け、渡り廊下を突っ切り、北の棟に向かう。ここがボクが普段、暮らしているところだ。1階が2人の姉さま、2階が兄さまと2人の弟、1番上の3階がボクと3人の妹たちのフロアになっている。


 なぜそんなに広いスペースが必要なのかって?そりゃだって、ボクだけではなく、ボクのお世話をする近習や、たくさんの人が一緒に暮らしているからさ。オジキも丘の家に行く時以外は、ここに住んでいるからね。


 渡り廊下は2階に直結している。階段を駆け上がって3階へ。ああ、ヒールって走るのに向いていない。踊り場で脱ぎ捨てて、そのまま裸足で屋上へ向かった。みんな屋上にいるはずだ。だって、そこから大広間が見えるから。式典を見る特等席なんだ。ドア代わりにかけてあるカーテンを払うと、日差しのまぶしさに目がくらんだ。


 「クラッチ、ベニコ!」


 屋上の手すりにもたれかかっていた2人が振り向いた。一人は背の高い北国人の男の子。これがクラッチだ。本当の名前はクレメンスという。言いにくいからずっとクラッチって呼んでる。ボクの近習の一人で、最初からいて年も一つしか変わらない。幼馴染みたいなものだ。西域暮らしが長くて、肌は日に焼けて真っ黒。短く刈り込んだ金髪と彫りの深い顔立ちが、北国人の名残を感じさせる。


 ちなみにクラッチが年上。かわいい顔をしているので兄貴という感じはしない。基本的にお互いタメ口で、遠慮なくツッコミあう仲だ。剣術が得意なんだ。ゆくゆくはボクのパーティーの前衛になると思っていた。で、その時が来たってわけだ。


 隣にいる小さい女の子がベニコ。名前からわかるように、見た目からしてバキバキの東方人だよ。真っ黒な直毛、真っ黒な目。少し眠そうな顔つきがかわいいだろ?ああ、ちゃんと起きているから気にしないで。


 ベニコはボクが直々にスカウトしてきた。キサナドゥーにある占いの館の子なんだ。彼女の母さまが占い師として働いていて、一緒にお店に来ていた。ボクは占いが好きで、オジキによく連れて行ってもらっていた。そこで出会って、仲良くなった。タロット占いが得意で、それがまたよく当たるんだ。


 まあ、ボクの勘が間違っていなければ、ベニコは相当な魔力の持ち主だね。雰囲気も魔法使いっぽかったし、ボクのパーティーの魔法使い候補として、ゴライアスに頼んで宮廷に招いてもらったんだ。もちろん魔法使い候補だなんて言ってない。年の近い女の子を近習に入れてほしい、心当たりがあるって言ったんだ。年はボクより2つ下だけど、小さい時からお店の手伝いをしていたからしっかりしている。なかなか頼りになる子だ。


 2人は式典用のドレスを着ていた。上下とも白で、裾がゆったりしている。クラッチはズボンで、ベニコはスカートだった。息を切らせて駆け寄ると、まとめてハグした。


 「カーラ、式典が始まっちゃうよ」


 クラッチは驚いた表情で言った。どうしてこんなところにいるんだろうと思っているに違いない。そんなのわかってる。だけど、今、ボクには式典よりも大事なことがあるんだ。ああ、ちなみにボクの近習はみんなボクのことをカーラと呼ぶ。スカリーも悪くないけど、こっちの方がかっこいいから好きだ。


 「クラッチ、ベニコ!」


 腕を離すと、顔を見てもう一度、名前を呼んだ。


 「時は来た!冒険の旅に出発だ!」


 えっ?とクラッチが言うのと同時に、高らかに式典の始まりを告げるファンファーレが鳴り響いた。そう、まるでボクの新たな門出を祝福するかのように。気持ちよくて、手を広げて空を仰ぐと、思いっきり息を吸い込んだ。


 ああ、気持ちいい。ついに新しい世界に出ていく時が来たんだ。屋上からは大広間がよく見える。パパが出てきた。王冠をつけて、豪華なマントを羽織っている。いいね。わが父上ながら、いい王様っぷりだ。続いてママだ。相変わらずデカい。ヒラヒラのドレスを着ているので、さらにデカく見える。


 そして兄さまに姉さま、弟に妹たち。みんな、よくあんな窮屈そうな服装をしていられるものだ。ママはキョロキョロしている。もしかして、ボクを探しているのかな?


 「カーラ、あそこにいないとマズいんじゃないか?」


 クラッチは昔から散々、ボクと一緒に悪さをしまくっているくせに時々、こういう常識ぶったことを言う。兄貴ぶってんじゃない。ボクが式典にいなくても、ムスラファンはそんなことで揺らぐような国じゃないんだ。


 「冒険の旅って、どこへ行くの?」


 ベニコが少し鼻にかかった声で聞いた。ああ、別に風邪を引いているわけじゃない。いつもこんなんなんだ。彼女の魅力の一つだと思って、気にしないでくれ。


 「決まってるじゃん!前からずっと言っていた日没都市だよ!」


 ベニコの肩に手を置いて揺さぶった時、肩越しにママと目があった。声は聞こえないけど、確かに「あっ」と言った。誰かを呼んでいる。そばに来たあの青いドレスの人は…キャロルじゃないか?これはマズいぞ。


 「おい、キャロルが出てきたぞ。俺たち、逃げた方がよくね?」


 クラッチが半笑いでこちらを見ている。そうだな。キャロルは足も速いし、腕っぷしも強いし、捕まったらお仕置き間違いなしだ。だけど、ボクたちの逃げ足を侮ってもらっちゃ困る。これまで何度、追いかけっこをしたと思っているんだ。


 「そうだな。でも、その前に…」


 ボクは手すりの上に立った。スカートが風にあおられてたなびく。ムスラファンの第三皇女がいることに気がついた人が、たくさんこっちを見ている。パパもだ。真紅のドレスはさぞかし目立つだろう。いいぞ、もっと見ろ。まもなく大陸一の冒険王になる、このスカーレット・アルアラム・ムスラファンの姿を。


 ボクは胸を張ると、大広間に向かって目一杯腕を伸ばして、Vサインをしてやった。


                                                     King of SunsetTown


                                                           (おわり)

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