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第101話 「私を忘れないで」

 万物の源を使って(シャウナにはまた大変な負担をかけてしまった)、元いたオアシスまで戻って、青薔薇隊とはそこで別れた。またつみれが手が付けられないほど泣くのではないかと思ったが、今回は寂しそうだったけど、笑顔で見送ってくれた。


 オアシスに立ち寄ったキャラバン隊に頼み込んで馬車に乗せてもらい、サラマンドルまで出た。アルバースに見つからないように馬車を調達して、キサナドゥーへと向かった。今回はマリシャもいるし、気楽な旅だった。


 そういえば言ってなかったなと思って、マリシャがみずほとそっくりだという話をした。何やらみんないろいろと想像を膨らませていたみたいで、妙に納得してくれた(特にシャウナとパインが)。


 サラマンドルからキサナドゥーまでは約1カ月の旅だ。途中、マリシャが魔族と一緒に旅をした話を聞いた。とても興味深かった。ゼンジのことを思い出した。マリシャとアフリートが最後に殺し合うことにならなくて、本当によかったと思った。


 帰りの旅の一番のトピックスは、アルアラムがパインにプロポーズしたことだ。大きなオアシスにある、割と高級な宿舎に泊まった日だった。そこは食堂の外にテラスがあって、満天の星がきれいだった。そういうシチュエーションを狙っていたのかな。夕食を終えてテラスでくつろいでいると突然、アルアラムが立ち上がった。


 「みんな、聞いてほしいことがある」


 少し声のトーンが上がっている。何事かと思ったよ。それであいつ、長椅子で体を伸ばしていたパインの前に行って「僕の妻になってほしい」と言った。


 両思いだということは知っていたよ。色恋に鈍い俺でもそれくらいはわかる。パインは寝そべったままで「え…」と言ってしばらく固まっていた。俺たちも、あいつが何か反応するまで黙っておいた方がいいかなと思って固唾を呑んで見守っていた。だけど、ずっと何も起きない。


 アルアラムは膝をつくと、パインの手を取った。


 「今回の旅でわかったんだ。パインは僕の盾じゃない。僕がパインの盾にならなきゃダメなんだ。君を守りたい。守らせてほしい」


 よく言ったなと思ったよ。マリシャと目が合った。ニカッと笑って親指を立てた。パイン、どうした。早くイエスって言えよ。自分がみずほに求婚した時より緊張した。ポカンとアルアラムを見つめていたパインは突然、ガバッと起き上がると、手を振り払ってどこかへ走って行ってしまった。


 「あ…」


 アルアラムも立ち上がる。


 「ほら、どうした。早く行けよ」


 オーキッドが背中をポンと叩いた。


 「連れ戻してくるのはあなたの仕事よ、アルアラム」


 シャウナもニヤニヤしながら肩を押した。


 「うん…。そうだ。そうだね」


 アルアラムは何度もうなずくと、パインが姿を消した方、夜の街へと駆け出していった。



 その後、どうなったのか知らないが、翌朝の2人を見ていたら、どうやらうまく行ったようだった。馬車の荷台で肩を寄せ合っていたから。えっ、なんでこっそり見に行ってないのかって? 行かないだろ、普通。人の恋路を邪魔するヤツは何とやらって言うだろ?知らないか。


 ともかく、おかげでお前が生まれたわけだ。ムスラファンの第3皇女・スカーレットが。


 6年間も大陸中を巡ってヒイロを探していたのに、あんなに近くに、しかも身内の子供として生まれてくるとは思わなかった。死者の国から消えたら、すぐに生まれてくると思っていたのが盲点だった。アルアラムから「生まれた子供の髪の色が変なんだけど」と連絡がなければ、気がつかないまま旅していたかもしれない。


 そうだな。お前の髪は色といい質といい、確かにヒイロによく似ている。パインの色にアルアラムの質と言われたら、そうかなと思わなくもないくらいだが、よく気づいたものだ。お前の父ちゃんには感謝しないとな。


 抱き上げてすぐにわかったよ。間違いないって。こっちに来てよく顔を見せてくれ。うん、大きくなったものだ。性別が変わっても、お前はヒイロによく似ている。目がきれいなところがそっくりだ。前世がヒイロだから、スカーレットとはうまいこと言ったものだ。おばあちゃんに感謝しろ。いい名前だ。


 見つけたらさっさとみずほのところに行くつもりだったが、お前が大きくなるのを見ていたら、なかなか行きづらくなってしまった。ああ、大丈夫。冗談だよ。ちゃんと結婚式の証人をするから。お前が幸せになるのを見届けてからあっちに行かないと、みずほに叱られてしまうし、合わせる顔もない。


 すっかり遅くなってしまったな。今夜は泊まっていくか?そのつもりでパジャマを持ってきた?準備のいいヤツだ。何?もうお話は終わりなのかって?後日談が聞きたい?一人ずつ話すと長くなるぞ。まあいいか。夜は長いしな。



 お前が大好きなマリシャは南方に帰らなかった。帰れなかったという方が正しいな。そりゃ、魔族や魔法にデリケートなところであんなことになっては、一族ごといづらくなるのは当然だ。


 パパレイ家はマリシャがキサナドゥーに戻る前に、南方から引っ越していた。マリシャを頼って来たので、アルアラムがヴィルヘルムに移住するのを手助けした。マリシャのお父さんは手先が器用で、アクセサリー工房を始めた。そうだ。お前も持っているだろ。あの効果抜群と評判のアクセサリーだよ。実はマリシャが守護者が注目しない程度に細工をして、ほんの少し魔法の効果がある。だから効くんだ。おかげで商売は順調。キサナドゥーに支店もできた。


 マリシャはキサナドゥーに戻って勉強を続けながら、つみれやシャナのところで研鑽を積んで、今や宮廷お抱えの魔道士さまだ。偉くなったものだ。ゴライアスの後釜を狙っているともっぱらの噂だが、どうなのかな。今度、本人に会ったら聞いておいてくれ。


 シャウナは転勤届を出して、エンツォのところに行ってしまった。自分の理想像みたいな人に会ってしまったんだから、仕方ない。恋愛感情はあるのかって?知らないよ。本人に聞いてくれ。とりあえず元気にしている。会ったことあるだろう?そうそう。あの金髪のお姉さんだ。やりたいことをやりたい放題やって、人生を楽しんでいる。エンツォと一緒に、しょっちゅう日没都市に行っているらしい。


 そういえばこの前、ついにみずほに会えたと手紙をくれた。みずほというのは前世でのお前の母ちゃんだ。ええと、どこにやったかな。ああ、これだ。「こういう女性が好みだったのか。ようやくわかってうれしい」だとさ。放っておいてくれ。とはいえ、みずほに会えたというのは聞き捨てならない。俺ももう一度、日没都市に行かないと。


 オーキッドはキサナドゥーまで一緒に来たけど、俺のけがが治ったら、また旅に出てしまった。あいつもたまに手紙をくれる。相変わらず大陸を巡り歩いているみたいだ。


 青薔薇隊はつみれが言っていた通り、北西部の山の中に理想郷を作った。その名も「ビレッジ・ブルーローズ」だって。ダサすぎる。他になかったのか?まあ、いいけど。なんだ、行ったことないのか。そうだな。場所を公開していないからな。あそこには万物の源があるし、また奪い合いになることを心配しているんだ。だから、つみれがこれぞと思った人間しか行けないようにしている。


 俺?もちろん行き方は知っているよ。今度、連れて行ってやろう。いいところだぞ。何もない荒れた峠を越えて洞穴を抜けると突然、緑の温泉郷が現れるんだ。びっくりするぞ。


 思ったほど広範囲を魔法で包めなかったので規模はそれほど大きくはないが、大体、つみれが思い描いていた通りの村だ。早く移住してこいとしつこく誘われている。いや、行かない。遊びに行くならいい。だけど、俺はここがいいんだ。離れたくない。


 アルアラムとパインの話は、別にいいだろう。お前の父ちゃんと母ちゃんだ。アルアラムは結婚してたくましくなったな。お兄さんが亡くなった後のゴタゴタも、うまいこと乗り越えて、今や国王さまだ。パインは元気か?そうか、相変わらずだな。いい母ちゃんだろ?まあ、そういうな。俺たちは、お前の母ちゃんにはめちゃくちゃ助けられたんだ。お手本にしろ。ああいう女になれ。


 それにしても、ちょうどいい季節に来たな。ほら、窓から見てみろよ。明日の朝くらいに一斉に開花しそうだ。早起きして一緒に見よう。この丘一面に花が咲く。きれいだぞ。クリスマスローズっていうんだ。


 花言葉は「私を忘れないで」なんだって。偶然にしては、よくできているよな。

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