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第62話 甦る者たち

 これが本当に伝説の大魔道士タイタンなのだろうか?この人間の開きが?いまだに信じられない。シャウナたちはダンジョンでこいつが作り出した壮大な幻影を見てきたので、用心して魔法を使わなくなった。もちろん俺も使わない。使えばコントロールされる可能性があるからだ。


 「お前とお前、それからお前も魔法を使えるだろう?どんな魔法を使えるんだ、うん?ほれ、早く見せてみろ」


 タイタンはしつこくつみれやエンツォ、シャウナに絡んだ。もちろん俺にも。なかなか諦めようとしない。そして、とても偉そうだった。1000年前には、よほど多くの人間の上に立っていたのだろう。だけど、ここにはその権勢を知る者はいないし、従う者もとりあえず現時点ではいない。ただのイカれた老人だ。


 とりあえず、まだ何か支配下に置かれた感じはしない。たぶん魔法を発動した時に何かされるのだろう。どういう状況下でコントロールされるのかわからない以上、うかつに魔法は使えない。


 タイタンはアイシャを見ると急に怒り出して「エドワードめ!姿を変えてもわかるぞ!」と襲いかかったので、トウマが止めた。1000年前に、この2人の間には何かあったようだ。トウマは「アフリートのところまで連れて行ってやる。だからそれまで、静かにしていろ」と言って状況を説明した。アフリートはおそらく今、シェイドと合流するために日没都市に向かっていること。ヒイロがそこまで案内できるということ。アフリートが今、肉体にしている人間を切り離すために万物の源が必要なこと。


 「お前、1000年前にアフリートの肉体だったんだろ? マリシャを切り離してくれたら、あとはアフリートをどうしようと、お前の勝手だ。勝手にしていいから、それまで俺たちに協力しろ。さもないともう一度、ダンジョンにぶち込む」


 そこまでトウマが言って、ようやくタイタンは少し大人しくなった。しばらく思案顔をしてから「1000年前じゃと?」と聞いた。「そう、1000年前」とトウマ。


 「ワシが閉じ込められてから1000年も経ったと言うのか?」


 タイタンは驚いたような声を上げた。いや、ようなじゃない。驚いていた。


 「1年くらいかと思っていた!」


 ダンジョンの中と外で時間の流れが違うので、そう思うのも無理はない。


 「いや、もう1000年経ったんだよ。前回のアフリートの話は、私たちの世界では神話になってる」


 シャウナが追加説明した。


 「なんじゃと!じゃあ、ワシも伝説になっているのか?!」


 タイタンは興奮気味に叫んだ。


 「いや、あんたは余録に少し書いてあるだけで、神話そのものには出てこないよ」


 「なぜじゃ!あんなに大活躍したのに!1000年前の魔法大戦争は、ワシが主役だったんじゃぞ!どういうことじゃ!」


 手を振り上げて、白髪がまばらに残る頭を抱えた。それを無視して「ヒイロ、早速明日、案内を頼む」とトウマが言うと「合点だ、父ちゃん!」と元気のいい声が返ってきた。


 合点? どこでそんな言葉、覚えたんだ?



 アルアラムはタイタンのそばにいたくないと言って、2階に上がってしまった。パインの部屋で寝るという。パインの部屋とはいうものの、そこはもともとつみれの部屋だ。到着当初、大けがをしていたパインを休ませるために空けただけで、今はパインをベッドに寝かせて、つみれとアイシャが床で寝ているらしい。


 そんなところに野郎がもう一人、入れるものか?と思っていたら、案の定、つみれにダメだと言われて、廊下に毛布を敷いていた。一国の王子とは思えない姿だ。


 ベルナルドとエンツォはいつもの1階の奥の部屋へ。俺とトウマ、ヒイロ、シャウナが1階の広間に。マルコは夜勤で見張り台に行った。タイタンも広間の一角だ。


 「おかしいな。ワシは大金持ちの大魔道士のはずなのだが。なぜこんな硬い床の上で寝なければならんのだ?」


 ブツブツ言っている。あいつ、乾燥させたらまた干物になるのだろうか?明日、砂漠に出たら、一気に干上がってしまうんじゃないか。一体どんな仕組みなのか医者として非常に気になる。全て魔法の仕業であると言ってしまえば簡単だけど、乾燥して干からびた人間を、水をかけて元に戻すなんてあり得ない。ミイラに水をかけたら生き返るか?生き返らないだろう? 



 皆が寝床についた後、トウマがヒイロに話しかけている声が聞こえる。


 「母ちゃん、元気か」


 「元気だよ。毎日、父ちゃんの話をしてくれるよ」


 「母ちゃん、俺のこと怒ってなかったか」


 「なんで? どうして怒るの?」


 「…。いや、怒ってないんならいいんだ」


 「母ちゃんは父ちゃんのこと、いつもすごい人だって言っているよ」


 「そうか…」


 プライベートな話だとわかってはいるが、聞き耳を立ててしまう。


 「ところでお前、なんでヒイロって名前なんだ。母ちゃんがつけたのか?」


 「えっ、父ちゃんがつけたんじゃないの」


 「…いや、母ちゃんの案は『ヒーロー』だったんだけどな」


 「父ちゃんがヒーローと名付けようとして、ベタすぎるからヒイロにしたって聞いたよ」


 「それ、事実とちょっと違うな」


 しばらく間があった。


 「お前、ここどうしたんだ」


 「えっ」


 「俺の目がおかしいのか? なんだか透けてないか?」


 「ああ、これは小さい時からよくなるんだ。シェイドさんは、俺があの世の生まれだからこうなるんだって言ってたよ」


 「ふうん」


 またしばらく間があった。


 「俺、死者の国生まれということは、いつかこっちに生まれ変わるのかな?」


 「死者の国で生まれるって、よくわからないな。どうなんだろう」


 「生まれ変わった時に、父ちゃんや母ちゃんのこと、覚えているのかな?」


 「わからんな。…でも、お前が覚えていなくても、探しに行ってやるから心配するな」


 「本当?」


 「本当だ。こうやって、やっと会えたんだからな」


 またしばらく沈黙。


 「父ちゃん、もっとお話したい」


 「俺もだ」


 まもなく、ヒイロの寝息が聞こえてきた。

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