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第44話 砂漠で会ったのはトウマの昔の仲間だったのじゃ

 寝てばかりいたので、その日の夜のことなのか、次の日の夜のことなのか、よく覚えていない。


 夜中に突然、アルに起こされた。テント内が緊張で張り詰めている。パインたち以外の誰かの匂いがした。2人だ。パインの上にアルとシャウナが覆いかぶさるようにしていて、左側にオーキッドがいる。トウマはどこだろうと少し頭を持ち上げてみると、右側にいた。


 「アルとシャウナはパインを守れ。オーキッドはその3人を守ってくれ」


 声をひそめて言うと、返事も待たずにテントから出て行った。ドスッと何かがぶつかって砂の上に倒れる音がする。低い声で話しているのが聞こえるが、内容はわからない。しばらくすると入り口の布を開けてトウマが戻ってきた。


 「知り合いだった」


 そう言って、誰かを招き入れた。まず入ってきたのは、トウマくらいの背丈の痩せた男だった。髪を短く刈り込んでいる。西域人で年齢は40〜50歳と言ったところか。目尻が垂れて目元だけなら笑っているように見えるのだが、大きな鼻やへの字に結んだ口元は不機嫌そうだ。無精髭がその印象をより強くしている。フードがついたカーキ色の上着に同じ色の7分裾のズボン。マントを羽織り、足元は皮のブーツにゲートルという砂漠の軍装だが、目が覚めるような青いマフラーを巻いていた。手にはボウガンを持っている。


 「何だぁ、いっぱいいるじゃねえか」


 見た目からは想像がつかない甲高い声を出した。そして「おーい、入ってきても大丈夫だぞ!」と外に向かって言った。


 もう一人が入ってきた。こちらは守護者だ。あちこち改造していたが、ユニホームを着ていたのですぐわかった。守護者は大陸各地にいるので、どこでも会う可能性はある。だけど、こんな砂漠のど真ん中で、しかもつい先ほどまで戦場だった場所で会うなんて、何だか意外な感じがした。


 背が高い。アルくらいありそうだ。南方人のような褐色の肌をしているが、髪が老人のように真っ白だった。だが、年寄りではない。むしろ、20代後半くらいに見える。顔立ちは西域人風で鼻が高くて彫りが深く、いわゆる美男子だ。白いユニホームの上着に後から縫い付けたのか、カーキ色のフードが付いている。リュックか何かを背負っているのか、肩口と胸元にベルトが見えた。腰には小さな物入れがたくさんついた革製の分厚いベルトを巻き、下半身のユニホームはつぎはぎだらけだ。ガーディアンズスティックは持っておらず、手にはこちらも小ぶりのボウガンを携えている。


 「おお、トウマだ!なんと懐かしい!死んでしまったのかと思っていたぞ!」


 オペラ歌手みたいなよく通るいい声だ。ボウガンを放り出すと、両手を広げてトウマをハグした。ボウガンが目の前に吹っ飛んできて、アルが目をむいてびっくりしていた。


 守護者がパチンと指を鳴らすと、パッと明かりが灯った。魔法の灯りだ。


 「〝窓〟を開けてもいいんだぞ」


 トウマが言う。


 「何を言っているんだ。俺たち以外のヤツに見つかったらどうする」


 不機嫌そうな男が言った。トウマはこちらに向き直り「こっちの痩せてるヤツがマルコ。こっちがエンツォ」と紹介した。マルコはボウガンを持った手を少し挙げ、エンツォは指を2本立てると、カッコをつけて敬礼するように目の横あたりに挙げた。


 「俺がいた討伐隊のメンバーだ」


 なんという幸運だろう。こんなに広い砂漠で、かつての仲間に遭遇するなんて。都合がいいにも程がある。


 「今の俺の仲間たちだ。あの大きいのがオーキッド。若い男がアルアラム。若い女がシャウナ。横になっているデカい女がパイン。けがをしていて動けない」


 もう少しマシな紹介の仕方はないのだろうか。間違っていないけど、モヤッとする。 


 マルコたちは計5人の小隊で、ここから1日ほど離れたオアシスを拠点に活動しているといった。最近、魔族の出没が多く、防戦一方で昨夜の戦闘に参加できなかったという。


 「それならオアシスを放棄してサラマンドルに帰ればいい」


 トウマが言うと、マルコは憤慨した。


 「そんなことしたら、あの鬼大将に何を言われるか、わかったもんじゃねえ。オアシスを守らないなら、戦場に来いってことになってみろ。そっちの方が大変だろ。お前たちも今、この有様じゃねえか」


 ここには戦闘が終わったので、兵器や食糧が残されていないか探しに来たらしい。


 「だがしかし、何もない!あんなに大きな戦闘だったのに!少しばかりの食糧くらいはあるだろうと思っていたのだが!」


 エンツォは話し方が大袈裟だ。普通にしゃべることはできないのだろうか。しかし、これでは討伐隊ではない。盗賊、いや、盗賊以下じゃないか。ハイエナみたいだ。もっと何かないかテントの焼け跡を探していたら、トウマとばったり出くわした。


 「本当は食糧がほしかったけど、トウマなら悪くねえ。親分が喜ぶぜ」


 「それに、こんなところで守護者のお仲間にも会えたし!なんたる幸運!なんたる暁光!」


 足はあるのか?とトウマは聞いた。2人はらくだでここまで来たという。


 「まあ、せいぜい連れて行けて2人だなあ。トウマとそこの守護者の姉ちゃんでどうだ?」


 マルコはシャウナを指差して言った。


 「俺を連れて行くなら、5人全員という条件付きだ。マルコ、この若い男はムスラファンの王子だぞ。助けないと後で後悔するぞ」


 「何だって!」


 エンツォが魔法の灯りを引き寄せて、アルのそばににじり寄って顔をのぞき込んだ。開いているのかどうかわからないくらいの細目で随分と長いこと見つめてから叫んだ。


 「おい、マルコ!こちらはアルアラム・シャファーン・ムスラファンであるぞ!」


 やっとわかったのか。シャウナが呆れたように見つめている。


 「それならそうと早く言ってくれよ。馬車を取ってくるわ。ちょっと待っててくれ」


 マルコはそう言うと、エンツォを連れて部屋を出て行った。


 2人が去ってしばらくして、今度はシャウナが魔法の灯りをつけた。


 「大丈夫か? 目印になるぞ」


 オーキッドが腰に手を当てて言った。


 「だって、仮に敵が来たとして、相当離れていてもわかるでしょ? さっき、こんなに早く気づくのかと驚いたよ」


 シャウナはそう言って、続けた。


 「信用していいの?」

 「いい」


 トウマは即答した。


 「腕利きばかりの小隊だが、何しろ人数が少ない。今の砂漠の状況からいけば、援軍がほしいはずだ。さっきも俺と会えたことを喜んでいたからな」


 信用するも何も、今は彼らに助けてもらうしかない。悔しいけど、パインがこんな状況なので動けない。まずは水を確保できるところに移動しないと、どのみち、5人とも生きて帰れない。

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