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第31話 ただのデカい女の子だと思ったら大間違いじゃ!

 砂漠というと何もないイメージがあるかもしれないけど、そうでもない。ムスラファンはというか、西域の人は昔から西に向かう道を作っていて、街道沿いには人が結構住んでいる。砂漠のままでは風で砂が流されて道がどこだかわからなくなってしまうので、地盤のしっかりしたところに石畳を築いて馬車が通れるようにしてあるんだ。


 もちろん砂が深くて道を作ることができない地域もあるけど、そういうところはごく一部だ。オアシスのあるところには大概、小さな街があって、ムスラファンの討伐隊が駐留している。水がないと生きていけないのは魔族も人間と一緒(たまに水なしで何日も活動できるヤツもいるけど)なので、水場の防衛は西域の大事な仕事の一つなんだ。


 もし、パインがエントなら、堂々とその道を通るな。だって、次の水があるところまで繋がっているし、人間もいるからな。討伐隊は武装しているけど、キサナドゥーの衛兵ほど人が多いわけじゃない。ああ、アルの兄ちゃんがいるところは別だよ。あそこは大軍だ。


 「そんなにポンとうまいこと、砂漠のど真ん中に現れてくれるかなあ」とアル。「だから、理想だって言っているだろう。現実的にはオアシスからオアシスを渡り歩くと思う。何しろ植物なんだから」とトウマ。砂漠の街道は、ほぼ一本道だ。どんどん行けば、マリシャに追いつくかもしれない。


 「で、追いついたとして、問題はどうやってお嬢を取り戻すかだ」


 オーキッドが言った。神武院でアフリートと戦った時は、シャウナがマリシャと話せたらしい。だけど、アフリートもいて、引き離すことはできなかったそうだ。


 「神話の時にはね」


 シャウナは神話にも詳しい。暗記するくらい何度も読み込んでいる。1000年前、アフリートが封印された時の経緯はこうだ。アフリートが当時、体として使っていた魔術師は、アフリートのやることなすことに口出しをしたり指図したりして、とてもうるさかったらしい。「中」ではその魔術師とモメて、「外」では人間から追撃されて、嫌になったアフリートは魔術師の体を放棄した。倒されたというよりも、降参したと言った方がいい。


 ならば、今回もマリシャがアフリートにあれこれ口出しして、うっとうしく思われたらいいのではないか?どうやら、パイン以外の4人は、この話を何度もしているようだ。みんな、ここで意見が続かなくなって、黙ってしまった。


 「それではマリシャの口先頼りで、俺たちのできることがない」とトウマ。「だけど、外から攻撃して、嫌がらせをすることはできる」とシャウナ。「とどめを刺すのはマリシャになってしまう」「それはそうだけど」。オーキッドも腕組みして目を閉じてしまった。アルは膝を抱いた腕にあごを埋めて、半分目を閉じている。叩き切ってしまえば済む話なら、パインも参加できるんだけどな。作戦を立てたりするのは、苦手だ。



 2夜目からは街道沿いに出たので、宿に泊まった。トウマとアルと一緒に、近くで襲われた村がないか情報収集に出かけたけど、幸いなことにこのあたりではまだそんな村はなかった。


 シャウナは宿に残ってオーキッドと魔法の特訓を始めた。次に会う時には、アフリートの炎を何とかしないといけないからということで、2人して防御魔法を研究していた。キサナドゥーに戻って準備を整えたら、いよいよ西の奥地に行く。そのことを想像すると胸が高鳴った。だって、最前線には昔から行ってみたかったんだもの。



 アレックスのところに行って剣術を習い始めて、自分がすごく強いということを改めて知った。もっと小さい頃、村に住んでいた時に同じくらいの年齢の子と遊んだら、みんなめちゃくちゃひ弱で、その時、初めて自分が強いんじゃないかと思った。だって、抱え上げて放り投げていたからね。何人か乱暴な男の子を懲らしめてやったら、みんな泣かせてしまって、それ以来、同い年の子供の間に入っていけなくなってしまった。


 トリスタンに行ってから、改めて大人相手に剣術の稽古をして、自分が強いということを実感した。大人と打ち合っても負けなかったし、みんながヘトヘトになっていても、パインは疲れなかった。


 テゾというおっさんがいて、その人から剣術を習った。すぐに「もうお前に教えることはないなあ」と舌を巻かれてしまった。だって、名前は忘れてしまったけど、パインは縦に切るのと横に切るのとだけで大体、勝てちゃったから。動きが速いのもあるし、力が強いから少々防がれたところで、刀ごとへし折っちゃうんだ。あ、刀といっても練習用の木刀だよ。本物の刀だったら、相手が何人いても足りない。


 パインがなかなか勝てなかったのは、キャロルだけだったなあ。キャロルというのはアレックスの侍女です。肩書きは侍女だけど、召使いって感じじゃない。妹みたいな感じかなあ。アレックスがクラクフに住んでいた時に仕えていたのがキャロルなんだ。本当はシャルロットっていう名前なんだけど、長いからキャロルって呼んでいた。


 キャロルは槍の使い手なんだ。最初にパインに槍を教えてくれたのが、キャロルだ。何度も稽古をつけてもらった。全然勝てなかった。こっちの方がパワーはあるのに、うまくいなされていつもやられてしまう。キャロルの槍の師匠である爺さんのところにも行って教えてもらったけど、それでも思うようにさせてくれなかったな。だけど、それ以外の人はそんなことなかった。パインの槍が強くないってことはないと思う。


 まあとにかくそんな感じで、腕には覚えがあったんだ。だから、前線でいつまでも戦闘が終わらないという話を聞くたびに、パインが行ったら一発で終わらせてやるのにと思っていた。パインはアルの盾だから、どこかで一度、本物の戦場を経験したいと思っていて「行きたい」って言ったんだけど、アルはもちろん爺さんも許してくれなかった。


 そんなに弱っちいと思っているのかな?女の子だからって、馬鹿にしてないか?今回、マリシャを取り戻しに前線に行ったら、ついでにひと暴れして魔族どもをギャフンと言わせてやる。みんな、パインに惚れ直すぞ。想像するだけで、楽しくて仕方がない。

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