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第20話 魔法の話をするよ。退屈だけど寝ないでね

 守護者と神武官は似て非なるものだ。そもそも成り立ちの思想が違う。守護者は簡単に言えば魔族と魔法の監視員という感じだね。魔族の生き残りや魔物を見張っていて、彼らが勢力を拡大しようとしたり、人間に害を及ぼそうとしたら対処する。人間が魔法を研究することにも目を光らせていて、不必要に普及させようとしたり、人に害をなすような魔法を使おうとしていたら、これも対処する。


 対処の仕方はいろいろあって、魔族ならば捕獲して封印したり、殺してしまうこともある。人間ならば、まずは口頭注意だ。それで済めばいいけど、言うことを聞かない場合は逮捕してイースに連れて行く。本人が心根を入れ替えるなら解放する(その後、しばらく監視はする)し、そうでなければ生涯、牢屋行きだ。


 要するにトラブルの芽を早期に発見して摘むのが、守護者の仕事なんだ。だから守護者は魔族や魔法のことを学んで、対策を日々、研究している。魔力を感知する方法とかもね。私もイースの学院で勉強したよ。なので、どうすれば炎が出るかとか仕組みは知っている。でも、自分ではできない。というのも…脱線するけど、魔法の仕組みについて、もう少し説明させてほしい。


 そもそも魔法を使うには、魔力が必要だ。魔力は生まれながらにして持っていることもあるし、後天的に身につけることもある。言ってみれば生体エネルギーみたいなものだ。魔力には器があって、これも生まれつき大きいのを持っている人もいれば訓練で大きくできる人もいる。もちろん、もともと魔力を持ってない人や、持っていても器が小さすぎて持ってないのと同じ人もいる。


 マリシャは生まれながらにして大きな器を持っていて、そこに常時なみなみと魔力が満ちているタイプだ。私?私は人並み。小さい頃は魔法使いに憧れて自分なりに訓練してみたけど、あまり効果はなかった。人間は生まれつき魔力を持っていない人も多いので、魔力を身につけただけでもありがたいんだけど。それに比べて、魔族は多かれ少なかれ生まれながらにして魔力を持っている。だから魔力と魔族は同列で語られることが多いんだ。


 ただ、魔力は持っているだけでは使えない。魔族がみんな魔法使いになるわけではないというのは、そういうことなんだ。魔力を何か外に向けて影響のある形にすることを魔法と言うのだけど、放出するためには回路と呼ばれるものが必要だ。分かりやすいのは、昔の魔法使いが持っている杖だね。ああいう棒状の物体に魔力を通すことで、さまざまな形で外に向かって打ち出すことができる。炎とか氷とか衝撃波とか、そういうヤツね。


 回路には自分の体を使うこともできる。治療魔法は手の平や指先を回路として使うことが多い。強い魔力を放射する必要があまりないし、遠くまで飛ばす必要もないから、それで十分なんだ。防御魔法もそうだね。身近なところに魔力を放出するのであれば、手や指で十分というわけなんだ。


 でも、攻撃魔法はそうはいかない。遠くまでエネルギーを飛ばすには、発射台みたいな回路がいる。だから、昔の人間の魔法使いは杖を持っているんだ。ドラゴンなんかは自分の喉を発射台にして魔力を炎に変換して吐き出すけど、人間はそんなことできない。と思っていたから、マリシャが何も道具を使わずに手の平から螺旋の炎を出した時にはマジでびっくりした。普通はあんなことできない。


 後からマリシャの体を見せてもらったけど、腕にすごい太い回路があった。人間でああいうのを持っている人は初めて見たなあ。これこそ本物の魔法使いなんだと感激したよ。私には無理。そもそも私の魔力は、あんな大きな炎として放出するほど容量がない。どんな形で出せるかは、その人の持っている魔力の容量に左右されるんだ。炎は大量の魔力が必要だからね。私もロウソクくらいのサイズなら出すことができるけど、道具がないとできないし、長い時間、出し続けることも無理。


 魔力を使い切ってしまうと疲れてヘトヘトになる。学院で訓練でやったことがあるけど、腰が抜けて立ち上がれなくなった。食事をしたり眠ったりして休息を取らないと、復活しない。だから、アフリートみたいに常時、メラメラ燃えているのは、彼女自身がすごい魔力の塊だということの証明なんだよ。


 エントもそうだ。本来なら動かない木が、動物みたいに動いているんだから。枝や根を動かすたびに大量の魔力を消費しているんだろう。エントは植物の精霊だから、太陽の光を浴びて水分を補給すれば魔力を回復すると言われているけど、アフリートはどうなんだろう。大量の食事を摂らないと、どんどん魔力がなくなっていきそうに思えるけど。


 私は両親が守護者だったのだけど、さっきも言ったように、小さい時になりたかったものは魔法使いだった。神話時代の物語が大好きで、魔法使いが魔族と戦うお話を、母さんに何度も読んでもらった。とんがり帽子に黒マントという魔法使いの定番の衣装を作って、魔法使いごっこをして遊んでいた。周囲は守護者の子供たちばかりだったから、コイツ、何やってんだって感じだよ。笑っちゃうよね。父さんは学院の先生で学生に魔法を抑制する方法を教えているのに、娘は魔法使いの格好をして走り回っていたんだから。


 守護者になることは、ある意味、魔法使いに近づくことだと思っていたし、父さんと母さんの手前もあって、普通に守護者になった。学院時代は、授業そっちのけで図書館と実験室を往復して魔法の研究ばかりしていた。どんな魔法があって、どんな仕組みかということは授業で教えてもらえるんだ。で、実際にできる人は使ってみて、その防御法を学ぶってわけ。


 授業が終わると、その「魔法を使う」部分を徹底的に自習した。それでわかったことは、私には才能がないということだった。魔力はあった。もともとあったのか、訓練を受けて身につけたのかは、わからない。でも、すごく少ない。器も小さい。治療魔法は消費する魔力が比較的、少なくて済むんだけど、それを3回も使えばすっからかんになる。4回目をかけると、ヘトヘトになって動けなくなってしまう。


 魔力の容量を増やす訓練も、器を拡大する訓練もやってみた。だけど、どれだけやっても炎を吹き出せるほどの魔力は身に付かなかった。私もできなかったけど、他にできる人は当時の学院にはいなかった。そりゃそうさ。魔法を抑制することを考えて1000年も過ごしてきた組織なんだもの。私も含めてみんな、かろうじて使えればいいくらいに退化しているんだ。私たちの犬歯が、物を噛み切るのには大して役に立たないようにね。


 守護庁でアフリートに対して、傘みたいな防御道具を使っていたのを覚えている? あれは、れっきとした守護庁に伝わる炎系魔法を防ぐための道具なんだよ。けど、全然使い物にならなかった。つまり、そういうことだよ。私たちは魔法を使うことを抑制したことで、魔法が使えなくなってしまったんだ。本物の魔法を知らないから、本物の魔法を防ぐ方法もわからなくなってしまった。


 学生の頃から、そうじゃないかと思っていた。だから本物を探して、イースの外に出たんだ。目指したのは西。魔法には寛大な地域だからね。西の果てでは魔族と戦うために、まだ現役で魔法が使われているとも聞いていたから。


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