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第2話 魔法使いの子孫なのに魔法使いではダメなんだ

 えっ、なんで女子なのにボクって言っているのかって? いいじゃない。あたしって感じじゃないんだもの。前から気になっていた? 変かなあ。


 ボクは5人きょうだいの末っ子で、いつも一番上のお兄ちゃんと遊んでいたんだ。お姉ちゃんたちはままごとや人形遊びばかりで、つまらないんだ。お兄ちゃんの名前はカインって言うんだけど…ああ、もちろん騎士カインにちなんで名付けられたんだよ。お兄ちゃんは毎日が冒険の日々だった。友達と山の洞窟を探検したり、川下りをしたり、海に潜って変わった形の石を拾ったりした。そっちの方がボクは楽しかったんだ。


 周りは男の子ばかりだったから、自然と自分のことをボクと言うようになったんだ。それに、ボクはお姉ちゃんたちに怖がられていたからね。生まれた時から自分で言うのもなんだけど、結構な魔力があったんだ。雨が降るとか、台風が来るとか、海が荒れるとか、すぐにわかった。肌で感じるんだ。お姉ちゃんたちにその話をすると、すごく怖がるんだよ。


 ボクに魔力があることを褒めてくれたのは、おばあちゃんとお兄ちゃんだけだった。パパとママもあまりいい顔はしなかった。ボクが生まれ育った南方では、魔法使いはあまりよく思われていないんだ。みんな魔法使いの子孫なのに、変な話だ。


 ちなみにパパレイの一族はニュウニュウ様の直系なんだ。魔族との戦いが一段落して魔法が禁じられたとき、ニュウニュウ様は人間の魔法使いを連れて南方へ行った。今、部族連合があるところだよ。ニュウニュウ様は魔族なのにマリシャ様に味方して戦った。そして、魔法が禁止になると、魔法使いを連れて大陸の南端まで行って、多くの魔法使いを船に乗せて大陸から脱出させたんだ。そうしなければ、いずれ魔法使いは人間に殺されると思ったのだろうね。


 でも、ニュウニュウ様は大陸を去らなかった。危険を承知で、いつかまたマリシャ様に必要とされる日が来るかもしれないと南方に村を作って、学校を建てた。シャイン様とエドワードはイースに魔法を封じるための学校を作ったけど、ニュウニュウ様は人間のために魔法の研究をひそかに続けたんだ。


 もちろん、表立ってはできない。マリシャ様の言いつけに背くことになるからね。学校では天文学や植物学を研究していることになっていた。ニュウニュウ様はたくさん人間との間に子供を産んで、才能のありそうな子を学校に呼んで、こっそり魔法を教えた。いつかまた魔族と戦うことになったら、魔法使いの力は必要だからね。


 そう言うわけで、ニュウニュウ様直系のパパレイ家に生まれたボクは、生まれついての才能があったというわけ。でも、さっきも言ったけど、それを喜んでくれたのはおばあちゃんとお兄ちゃんだけだった。4人の魔族の冒険の話を最初に教えてくれたのもおばあちゃんだった。こんなものすごい魔族が人間を滅ぼしかけたんだから、立派な魔法使いになって彼らといつでも戦えるように準備しなさいと、いつも言っていた。


 6歳になると学校に行って魔法を習った。暗いところを照らす明かりを出すとか、火を起こすとか、そんなのをね。お兄ちゃんの前でやると「マリシャBはすごいな!」って褒めてくれた。


 実はお兄ちゃんもそこそこ魔力があったよ。ただ、使えないんだ。学校で教わった魔法をこっそりやらせてみたことがあったけど、うまくいかなかった。なぜだろう。でも、魔法が禁じられた今、魔法使いは変な目で見られるし、使えないならそれでいいと、その時は思ったんだ。あの時、もっときちんとお兄ちゃんにも魔法使いの素質があって、訓練をした方がいいってパパに言っておけばよかった。それは今でも後悔しているんだ。


 さっきも言ったけど、おばあちゃんとお兄ちゃんしか、魔法使いの資質があることを喜んでくれなかった。南方では魔法使いは複雑な存在だ。本来ならニュウニュウ様の子孫として立派な魔法使いになることは、南方人としては誇らしいことだとボクは思っている。でも、それはボクが魔法が好きで、自分が魔法使いの才能を持って生まれたから、そう思うのかもしれない。


 世間的に魔法は禁じられていて、表立って魔法使いであることを名乗ることはできない。魔法使いの子孫であるからこそ、魔法は禁忌なんだ。でも、魔法使いの資質があるとわかれば、部族連合のルールで学校で魔法を習う。友達と別のクラスで勉強することになるから、すぐバレる。守護者の監視も厳しくなるし、平穏に暮らしていくには家に魔法使いがいない方がいい。


 だから、魔法使いとしての勉強を終えると大概の人は南方を出て行ってしまう。学校に残って研究者になる人もいるけど、ずっと監視付きの生活だし、簡単に結婚もできなくなるからね。才能に恵まれた人はだんだんと減ってきていて、ボクは50年ぶりくらいに魔法を習った生徒だった。先生はすごいおばあちゃんで、その先生もおばあちゃんに習ったらしい。


 ここには魔法を受け継ぐ歴史も土壌もあるのに、あえてそれをやろうとしない。むしろ、それをすることが一族を危機にさらすと考えている。今、こうして胸を張って魔法使いですと言える身分になったけど、おかしなところで育ったものだと思うよ。


 当時、パパレイ家は6代も魔法使いが出ていなくて、その分、後ろ指をさされることも少なくて、パパは部族長も務めていた。ところが、末の娘がしゃべれるようになるやいなや海が荒れることや、日照りを予言するものだから、気になって学校に連れていって魔術の先生…さっきのおばあちゃん先生に見てもらった。「素晴らしい素質です。魔法使いの訓練を始めましょう」。パパは腰を抜かして驚いた。


 さっきも話したけど、魔法使いになると厄介なんだ。「あそこの子は魔法使いで、魔族を引き寄せるかもしれない」って目で見られるからね。本人だけではなく、家族も肩身が狭いんだ。特にパパは部族の顔役だったから、家にはいろんな人が出入りするし、毎回そんな目で見られる。息苦しくないわけない。ボクよりもパパやママ、お姉ちゃんたちの方がキツかったんじゃないかな。よく何年も耐えたと思うよ。


 14歳になった時、ボクはムスラファンの大学に留学することになった。表向きは、南方の学校でやることがなくなったということになっているけど、実際はこれ以上、家にいると、家族の精神が擦り切れてしまうからだったと思う。


 パパから「ムスラファンに行きなさい」と言われた時には、ついに追い出される日が来たかと割と冷静に受け止めた。仕方がないよね。あのまま南方で押し込められた生活を続けていたら、ボクも爆発していたと思う。村に火を放っていたかもしれない。それくらい息苦しい思いをしていたんだ。

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