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King of SunsetTown
むらまさひょうえ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年10月26日
公開日
278,379文字
連載中
魔族によって滅亡寸前まで追い込まれた人類が、知恵と勇気で世界を取り戻してから1000年後。
魔族を復活させないために、人間は彼らの原動力となる魔法と一定の距離を置き、魔族を監視する守護者(ガーディアン)というシステムを構築していた。
魔法使いの素質を持って生まれた少女マリシャは、自らの可能性を求めて冒険の旅に出る。
はるか遠い砂漠の向こう、人類に追われて逃げのびた魔族たちが住む「日没都市」を目指してー。

冒険の旅に出れば、あんなことやこんなことで困るんじゃないの?ということをいろいろ詰め込みながら、王道ファンタジーを書いたつもりです。
自分で言うのもなんですが、序盤は説明くさくてかったるいです。中盤あたりからテンポがよくなります(そんな気がします)ので、どうぞ気長にお付き合いください。

第1話 プロローグ〜冒険に出る前に知っておいた方がいい神話のこと

 やあ、待たせたね。


 ボクの冒険譚を始める前に、君に聞いておきたいことがある。神話は読んだことある? あるけど忘れた? それじゃ困るなあ。じゃあ、最初に神話の話をしておこう。知らないとわからないことが、いろいろ出てくるからね。神話は大きな図書館に行けば、大体置いてあるよ。こんな大きな、ひと抱えもある本だ。それが10冊。全部読んだらものすごく時間がかかってしまうから、今日は簡単に、大事なところだけを話すよ。


 今から1000年前、この世界は今みたいに人間が暮らす場所じゃなかった。そう、魔族が支配していたんだ。人間はいなかったわけじゃない。その頃の人間は今の魔族がそうであるように世界の隅っこで姿を隠して、ひっそり暮らしていた。なぜかって? だって、人間は魔族よりも圧倒的に弱いからだよ。


 魔族は体も大きいし、力も強いし、走るのも速い。翼を持って空を飛ぶ者や、魚のように長い時間、水中で生活できた者もいたそうだ。そして何より魔族は魔力を持っていて、魔法を使うからね。人間はかないっこないのさ。魔族は人間を食べてしまうし、食べられなくても、捕まったら奴隷として働かされるので、人間は山奥とか谷底とか、それこそ今、魔族が隠れて住んでいるような場所で、肩を寄せ合って密かに暮らしていたんだ。


 ある時、4人の魔族が旅に出た。えっと、どうしよう。一人ずつ紹介してもいいんだけど、時間がかかるし、脱線しちゃうから今はやめておこう。彼らは世界の果てを目指して旅に出たんだ。そう、世界の果て。誰も到達したことがないという…おっと、横道にそれそうになった。とにかく4人は冒険の旅に出て、道中でどんどん人間を殺したんだ。殺したというのは、おかしいな。食糧にしたという方が正しいね。何しろ長い旅だったから食べ物がたくさん要る。4人の旅は話題になって、他の魔族たちも大陸を横断して移動を始めた。当然、人間が減るスピードはもっと加速していったってわけ。


 人間たちは逃げて逃げて、北の都イースに追い詰められた。そこにも4人の魔族がやってきて、都は陥落した。だけど、イースの女王マリシャ様は、4人の勇者と一緒に反撃を開始したんだ。剣士シャイン、騎士カイン、賢者エドワード、魔道士ニュウニュウ。そうそう、聞いたことあるよね。みんな世界のあちこちに銅像や肖像画があるもん。彼らの名前をつけられた人もたくさんいるし。ボクの名前もマリシャだよ。ちなみに一番上のお姉ちゃんもマリシャだ。だから、家ではお姉ちゃんがマリシャA、ボクがマリシャBって呼ばれていた。学校では5人もマリシャがいたから、マリシャ・パパレイってフルネームで呼ばれていたよ。


 また横道にそれてしまったけど、この5人が知恵と勇気で魔族に立ち向かった。人間が安心して暮らしていける世界にするためにね。話せば長くなるから端折っちゃうけど、マリシャ様たちは世界の奪還に成功して、4人の魔族のうち3人を倒して、残りの1人も西の砂漠のはるか遠くへ追いやった。騎士カインはその魔族を追いかけていって、帰ってきていない。噂では今でも生きていて討伐隊の先頭に立っていると言われているけど、さすがにもう死んでいるだろう。普通の人間だったらね。ちなみに、このカインの討伐隊が、今も西域の討伐隊に繋がっているんだ。


 世界を奪還したマリシャ様が最初にしたことは、魔法の使用を禁じることだった。なぜって、魔法は魔族と深い繋がりがあるからさ。人間が魔法を使っていると、魔族が力を取り戻すのではないかと考えたんだ。シャインとエドワードに命じてイースのあったところを拠点として、魔法を禁じ、魔族が復活しないように見張るための組織を作った。そうそう、それが守護者(ガーディアン)さ。


 守護者は魔法の専門家だ。だって、魔法と魔族が復活しないように世界を見張っているんだから、魔法や魔族のことをよく知っていないといけないでしょ。彼らは小さい頃から北の都、イースの学校で教育と訓練を受ける。優秀な守護者は、実際に魔法を使うことができる。でも、基本的に外で使ったらダメなんだ。魔族に感知されて、呼び寄せてしまうからね。


 シャインとエドワードが作った学校からは多くの守護者が巣立って、大陸中へ散らばっていった。また世界を魔族に奪われないように、彼らはいつも見張っている。魔族は根絶されたわけじゃないからね。かつての人間のように山奥や谷底でひっそり暮らしているし、魔族であることを隠して人間の社会に溶け込んでいる者もいる。人間と結婚して、人間として生きている者もいる。そう、よく知っているね。魔族の血を引いた人を末裔って言うんだ。君の周囲にもいるでしょ? 妙に体の大きな人とか、筋肉の発達がすごい人とか。すごく身近にいるよね。そういう人は大体、末裔だ。


 長くなったけど、神話で知っておいた方がいい話は、これくらい。ボクの冒険譚を聞き終えたら一度、神話を読んでみるといい。とても面白いから。ボクも神話を読んで憧れたんだ。いやあ、マリシャ様やシャイン様の大活躍の話じゃあない。4人の魔族の冒険にさ。いつか自分もあんなふうに仲間を見つけて、世界の果てを目指して旅をしてみたいと考えたんだ。ふふっ、変だよね。人間を滅ぼしかけた魔族の冒険が、面白いだなんて。


 それじゃ、改めてボクの冒険譚を話すことにしよう。4人の魔族の旅みたいに面白くて痛快なことばかりじゃなかった。むしろ、悲しくて辛いことの方が多かったな。あ、ちなみに全部、ボクが話すわけじゃないよ。ボクが立ち会えなかったところや、知らない部分がたくさんあるからね。そこは、旅の仲間たちが話してくれると思う。食い違うところがあるかもしれないけど、そこは記憶違いってヤツもあるから、許してほしい。

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