「殺人じゃないって、どういう事?」
秋羽の言葉に、菊乃が問うた。
「あれは連続殺人事件でしょ。赤ずきんのロゴの入ったリボンが置かれていて、そして現場に行った形跡のあった私が、こうして容疑者候補として上がっているわけなんだし」
「違う……それこそが、思い込みだったんだ」
――そう、それが俺達のそもそもの誤りであり、彼女達の思惑だった。
「それぞれ別の場所で惨殺されてはいるが、死因はそれじゃない。全員が絞殺だった」
全ての被害者が絞殺され、その数時間後に遺体を切り刻まれていた。どれくらい時間が経過しているかは、それぞれ異なっていた。一時間も経たずに傷つけられたものもあれば、一時間後のもの――また、刺し方もそれぞれ違った。
「刺し方がいつも違うのは、精神が不安定だったから……そう思った時もあったが、実際は違った」
最初は心臓を一突きで済み、二件目が胸元を乱暴に傷つけられ、そして三件目は腹部を焦ったように傷つけられたのは――
「遺体を傷つけた人物が違っていたから、だったんだな」
「……っ」
菊乃は目を見開いた。
「一件目と二件目は死んだ三人のうちの誰かがやった。そして、三件目だけ、君がやった」
「違う。私が、全部……」
「いいや、それはない。全ての現場において、現場に出入りしたのは被害者を含めて二名のみ。つまり……」
ふいに、キーワードが次から次に脳内に浮かんできた。
連続殺人事件。死因は絞殺。
現場は二人が出入りした形跡があり、菊乃は三件目のみ出入りした証拠があった。
被害者は全員絞殺された後に、遺体を傷つけられた。
被害者容疑者含めて、全員が事件時のアリバイはなかった。
つまり、これは――。
”ジリリリリリリリリリリ”
唐突に、アラーム音が激しく鳴り響いた。
「……」
秋羽と菊乃は、互いに睨み合う。
傍から見ると、それは言葉のない会話をしているようにも映り――部屋の外側にいる茉莉達にも肌を掠る衝撃を感じた。
そして長い沈黙の果て、秋羽は言った。
「これは……自殺だ」
*
取り調べを終えるアラーム音が鳴り響く中、秋羽と菊乃は互いに見つめ合う。
外側で監視役としていた警察官の内の一人がおそるおそる扉を開こうとするが、それを茉莉が手で制した。
「待て」
「しかし、もう時間が……」
「見て分からないか? まだアイツらは、取り調べを終える気はないようだ」
茉莉の有無言わせない言葉に、警察官は手を引っ込めた。
「ほら、とっとと終わらせろ」
「これは、連続殺人なんかじゃない。連続自殺だ」
「自殺? 何言っているんですか。ネットで見ましたよ。遺体は惨殺されたって。本人が自分の身体を切り刻んだとでも言うんですか?」
「いいや、違う。遺体をめった刺しにしたのは第三者……君達の内の誰かが、一人が自殺した後にその遺体をめった刺しにする。そして遺体を傷つけた人物が、次に自殺する。そして残りの誰かがその遺体を刻み……また数日後に自殺をする」
つまり連続殺人に偽装された自殺だ。
全員が共通して絞殺だったのは、全員が選んだ自殺方法が首吊りだったからだ。
「誰も、友達の遺体を切り刻むとは思わない。めった刺しにしたのは、連続殺人に見せるためもあったが、自殺だと勘づかれないために、惨殺に見せる必要があったからだ」
そして、この順番でいくと、次は――
「そして最後に君が自殺する事で、この事件は迷宮入り……それが、君達が考えた筋書きだろ」
「……」
無言で菊乃は立ち上がった。
「おい」
「アラームは鳴った。もう取り調べは終わりでしょ? 刑事さん。それとも『自白法』に背いて、私との取り調べを続ける? それって、本末転倒じゃないの。刑事が、法律破るとか」
菊乃は早口で言うと、扉に手をかける。そして、秋羽を振り返ると――
「じゃあね、刑事さん……またね」
笑った。