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第10話

 そして改めて秋羽と茉莉は、おそるおそる太郎が不正ログインしたSNSの画像を覗き見る。


      *

 9月15日、AM2時03分。

『本当だった』

『四季さんはあいつらに〇された。違う、あの人の言う通り、私達も同罪』

『どうしたらいいんだろう』

『また相談してみよう』


 9月22日、AM3時07分。

『これならみんな平等に罪が償える。みんな一緒、誰も欠けたりしない』

『あの男には生き地獄を味合わせてやる』

      *


 この「ハル」というアカウントは第一の被害者である春咲エリカのものらしい。

「なんだ、これ?」

「鍵のアカウントとなると、友人以外、いや友人にすら見られたくない心の内って所か」

 茉莉はそう呟いた後、毛布の中でもぞもぞと蠢く太郎を見る。

「おい。このDMというのは……」

 エリカがどういう意図でこれを投稿したのか分からないが――察する所、そのDMの主が今回の事件に深く関わっているように思える。

「白いの。それはお前が考えるべき所ではない」

「え?」

「今分かっているのは、エリカという小娘が何かを掴み、それを過去の友人達に伝えた。そして、その結果、三人の娘が死に……一人が生き残っている。その事実だけだ。

 エリカが全てのきっかけという事か?

「そして、お前は自白刑事……何も掴んでいなくても、真実を当人から引きずり出すのが仕事だ。それは赤いのでも、俺様でも出来ん……お前だけに与えられたもの。決着は、いずれお前がつける」

「桃太郎。お前、どこまで分かっているんだ?」

「……」

 太郎は答えない。

 言葉の代わりに、毛布から新しいアイパッドを差し出してきた。

「そこに、全部入れておいたぞ」

「全部って……」

「そのままの意味だ。盗作クソ野郎の現住所、それから姫崎四季が『死んだ理由』」

「死んだ理由って、自殺した理由って事か?」

 秋羽が訊くと、太郎は何故か少し出していた顔を毛布の中に引っ込めた。

「おい、桃太郎。どうしたんだ?」

「……胸糞悪い」

「は?」

「そのままの意味だ」

 太郎はそれきり何も言わなくなった。

 これ以上は何を言っても答えないだろう。

 ――こいつがこうなる時は、どういう時か知っている。

 秋羽は渡されたアイパッドを見つめた後、毛布越しに太郎に触れる。

「桃太郎、お前は本当に……優しい奴だな」

「……」

 太郎は答えない。

 ――こいつは変わって見えるが、本当は……

 子供が酷い目に遭うのを嫌い、本当はそういう事件に関わるのも嫌がる。

 優しい以上に傷つきやすい。だから人の悪意に触れると、当事者のように傷つき――こうやって引きこもってしまう。

「約束する、桃太郎。悪い奴は、懲らしめないとな」

「……頼んだぞ」

 毛布の中から、太郎がそう呟いた。


      *


 秋羽が先に部屋を出て、茉莉もそれに続こうとした時。

「待て、赤いの」

「赤西だ」

 毛布にくるまったまま、太郎が床を這って近づいてきた。

 ――あやうく蹴り潰す所だった。

「被害者達の死因だが……全員、絞殺って事は知っているな?」

「知ってはいるが、妙な話だな。絞殺した後に、ナイフでめった刺しにするなんて」

 怨恨にしてはタチが悪い。ただ殺すだけでは飽き足らず、肉体をあそこまで――

「確かに妙ではあるが、問題はそこではない」

「え?」

「まだはっきりと結果が出たわけではないが、絞殺された時間と、身体が傷つけられた時間とでは、半日ほど空いている」

「それって……絞殺して放置し、その後で刺したって事か?」

「おそらくな。しかも三件ともだ。時間もばらばらで、一時間以内にめった刺しにしたものもあれば、半日ほど経過してから、行動に移したものもある。加えて言えば、刺し方も、一件目は心臓を狙った、慎重かつ丁寧なものだった。二件目は大雑把かつ大胆……そして、三件目は、躊躇した跡が目立ち、それを隠そうと無駄に遺体を破壊した痕跡があった」

「妙だな……心神喪失していたとしても、そこまで差が出るとは」

「なあ、何か意味があるとは思わないか?」

「お前、もしかして……犯人が分かっているのか?」

「……」

 太郎は答えない。ただ毛布の中でもぞもぞと動くだけだ。

「答えろ。犯人が分かっているなら……」

「赤いの……」

 太郎は、呻くように低い声で言った。

「……替えとか、持ってないか?」

「は?」

 その時、嫌な予感と共に、微かな悪臭が漂ってきた。

 こいつ、まさか――。

「さっきコーヒーガブ飲みしたせいか……だけど、ここから動きたくなくてゴロゴロしていたら、身が……」

「……じゃあな」

「赤いのおおおおおおおお!」

 扉を締めた向こう側で、悲鳴がこだました。


「可哀想だから、清掃スタッフに電話入れておくか」


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