そして改めて秋羽と茉莉は、おそるおそる太郎が不正ログインしたSNSの画像を覗き見る。
*
9月15日、AM2時03分。
『本当だった』
『四季さんはあいつらに〇された。違う、あの人の言う通り、私達も同罪』
『どうしたらいいんだろう』
『また相談してみよう』
9月22日、AM3時07分。
『これならみんな平等に罪が償える。みんな一緒、誰も欠けたりしない』
『あの男には生き地獄を味合わせてやる』
*
この「ハル」というアカウントは第一の被害者である春咲エリカのものらしい。
「なんだ、これ?」
「鍵のアカウントとなると、友人以外、いや友人にすら見られたくない心の内って所か」
茉莉はそう呟いた後、毛布の中でもぞもぞと蠢く太郎を見る。
「おい。このDMというのは……」
エリカがどういう意図でこれを投稿したのか分からないが――察する所、そのDMの主が今回の事件に深く関わっているように思える。
「白いの。それはお前が考えるべき所ではない」
「え?」
「今分かっているのは、エリカという小娘が何かを掴み、それを過去の友人達に伝えた。そして、その結果、三人の娘が死に……一人が生き残っている。その事実だけだ。
エリカが全てのきっかけという事か?
「そして、お前は自白刑事……何も掴んでいなくても、真実を当人から引きずり出すのが仕事だ。それは赤いのでも、俺様でも出来ん……お前だけに与えられたもの。決着は、いずれお前がつける」
「桃太郎。お前、どこまで分かっているんだ?」
「……」
太郎は答えない。
言葉の代わりに、毛布から新しいアイパッドを差し出してきた。
「そこに、全部入れておいたぞ」
「全部って……」
「そのままの意味だ。盗作クソ野郎の現住所、それから姫崎四季が『死んだ理由』」
「死んだ理由って、自殺した理由って事か?」
秋羽が訊くと、太郎は何故か少し出していた顔を毛布の中に引っ込めた。
「おい、桃太郎。どうしたんだ?」
「……胸糞悪い」
「は?」
「そのままの意味だ」
太郎はそれきり何も言わなくなった。
これ以上は何を言っても答えないだろう。
――こいつがこうなる時は、どういう時か知っている。
秋羽は渡されたアイパッドを見つめた後、毛布越しに太郎に触れる。
「桃太郎、お前は本当に……優しい奴だな」
「……」
太郎は答えない。
――こいつは変わって見えるが、本当は……
子供が酷い目に遭うのを嫌い、本当はそういう事件に関わるのも嫌がる。
優しい以上に傷つきやすい。だから人の悪意に触れると、当事者のように傷つき――こうやって引きこもってしまう。
「約束する、桃太郎。悪い奴は、懲らしめないとな」
「……頼んだぞ」
毛布の中から、太郎がそう呟いた。
*
秋羽が先に部屋を出て、茉莉もそれに続こうとした時。
「待て、赤いの」
「赤西だ」
毛布にくるまったまま、太郎が床を這って近づいてきた。
――あやうく蹴り潰す所だった。
「被害者達の死因だが……全員、絞殺って事は知っているな?」
「知ってはいるが、妙な話だな。絞殺した後に、ナイフでめった刺しにするなんて」
怨恨にしてはタチが悪い。ただ殺すだけでは飽き足らず、肉体をあそこまで――
「確かに妙ではあるが、問題はそこではない」
「え?」
「まだはっきりと結果が出たわけではないが、絞殺された時間と、身体が傷つけられた時間とでは、半日ほど空いている」
「それって……絞殺して放置し、その後で刺したって事か?」
「おそらくな。しかも三件ともだ。時間もばらばらで、一時間以内にめった刺しにしたものもあれば、半日ほど経過してから、行動に移したものもある。加えて言えば、刺し方も、一件目は心臓を狙った、慎重かつ丁寧なものだった。二件目は大雑把かつ大胆……そして、三件目は、躊躇した跡が目立ち、それを隠そうと無駄に遺体を破壊した痕跡があった」
「妙だな……心神喪失していたとしても、そこまで差が出るとは」
「なあ、何か意味があるとは思わないか?」
「お前、もしかして……犯人が分かっているのか?」
「……」
太郎は答えない。ただ毛布の中でもぞもぞと動くだけだ。
「答えろ。犯人が分かっているなら……」
「赤いの……」
太郎は、呻くように低い声で言った。
「……替えとか、持ってないか?」
「は?」
その時、嫌な予感と共に、微かな悪臭が漂ってきた。
こいつ、まさか――。
「さっきコーヒーガブ飲みしたせいか……だけど、ここから動きたくなくてゴロゴロしていたら、身が……」
「……じゃあな」
「赤いのおおおおおおおお!」
扉を締めた向こう側で、悲鳴がこだました。
「可哀想だから、清掃スタッフに電話入れておくか」