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第8話

 場所は駅前の喫茶店。

 昭和からある歴史ある喫茶店では、洋楽が流れる。

 チェーン店と比べると小さいその店は、四人席が三つと、四人程度座れそうなカウンター席があるだけだ。

 所謂穴場というやつで、夕方の時間帯でも客は茉莉と正義、そして高校で出会った少女――灰崎はいざき 咲綾さあやの三人だけだ。

 茉莉と咲綾の前にはホットコーヒー、正義の前にフルーツパフェが並ぶ中、茉莉は正面に座る咲綾に問う。

「それで、さっきのはどういう意味だ?」

 あの後、茉莉は咲綾と放課後会う約束をし、今に至る。

 まだ授業が残っている事もあったが、それ以上に学校で話すとまずそうな雰囲気があったため放課後まで待ち、学校から離れた喫茶店まで移動した。

「私、菊乃ちゃんやエリカちゃん達は、みんな同じ中学出身なんです」

「同じ中学っていうと……」

「白桜中学。白高と同系列の中学です。といっても中学は公立ですが」

 彼女曰く、中学校は公立であり、当然ながら近隣に住む子供は自動的に白桜中学に通うそうだ。だから中学校はお嬢様学校ではないそうだ。

「私も母から聞いただけなので詳しくは知らないんですけど……」

「母親?」

「はい。私の母もこの辺りが生まれで、学校も同じだったんです」

「あー、なるほど」

「たしか母の話では……白桜は小中学は公立で、高校も系列になっているけど、高校だけは私立なんです。それで、高校の方も昔はお嬢様学校って雰囲気じゃなかったけど、校長先生が変わってからエリート志向になって、今のお嬢様学校って感じの雰囲気になったらしいです」

「お嬢様学校、ねえ」

 茉莉が想像しているお嬢様とははるか遠い学生達の態度を思い出し、つい顔を引き攣らせてしまった。

「それで、その……いじめも酷いって話で……それは昔からみたいなんですけど、学力重視っていうか、テストの点数が人生決めるみたいな雰囲気があって……」

 彼女も被害者の一人なのか、自分の事を語るように話し始めた。

「いじめも色々です……成績が低い生徒でも運動とか他で目立てば免除されるけど、何もない子はただのサンドバッグ……先生だって、そういう子は自分の成績にならないからシカトだし」

「……っ!」

 茉莉は怒りで叫びそうになった自分を制した。隣の正義の足を思いっきり踏みつけて。そのおかげで正義も「何でッスか!?」と叫ばなくてすんだが。

 ――そして、何でいつもお前は嬉しそうなんだ。

「あ、ごめんなさい。菊乃ちゃんの話でしたね」

 思い出したように言った後、彼女は懐かしむように目を細めた。

「中学の時。あの五人はとても仲が良くて、いつも一緒にいました」

「五人? 四人ではないのか?」

 被害者は三人、容疑者の菊乃をいれると合計で四人になる筈だが――

「もう一人、いたんです。姫崎四季ひめさきしきさん……あのグループはその子が中心に回っていたと思います。とても優しくて、明るくて……みんなの憧れでした。だけど……」

 咲綾は静かな声で言った。

「彼女は、中学の時に死にました」


       *


「あの学校、何かあると思ったら、そういう事か」

 事情を咲綾から聞いた茉莉は喫茶店に正義を残し(主に支払いのため)、先に警察署に戻ってきていた。

 そして――


「何で俺まで」


 場所は桃瀬太郎のいる「科学捜査班(黒)」。

 どう容疑者高校生を落とそうか考えながら廊下を歩いていた時。突然凄い勢いで走ってきた茉莉に首を捕まれ、そのまま強引にここまで連行された。警察って怖い。

「こいつ相手に、私一人で会話が出来ると思うか?」

「そりゃ無理だろうけど、だからって……」

 ――俺も桃太郎の言っている事、全て理解出来るわけじゃないんだけどな。

 ――まあ、学校側の情報が欲しかった所だし、ちょうどいいか。

 ちらり、と秋羽はノートパソコンで何やら調べている太郎を見る。

 すごい速度で画面が切り替わり、一体何をどうやって調べているのは分からない。

「それで、その子はなんて?」

 秋羽は隣に立つ茉莉に問うた。

「ああ、中学時代に五人仲が良かった事と、内一人である四季という少女が死んだ事。それ以上の詳しい事は知らないらしい」

「死因は?」

「そこまでは……ただ事故とだけ伝えられた、とか」

「なるほど。それで桃太郎か」

 彼なら過去のデータベースに侵入し、当時の事件の詳細を見つける事が出来る。それも数分で。

「あぁ、それから妙な事を言っていたな」

「妙な事?」

「あぁ。被害者のエリカという少女だが、被害に遭う数週間前からか、SNSのイッテミターに意味深な投稿をしていたとか……」

「意味深な投稿?」

 そう秋羽が聞き返した時だった。


「フィニッシュだ」


 太郎がそう呟くと、パイプ椅子で回転しながら近づいてきた。かなり不気味であり、秋羽と茉莉は同時に一歩だけ後ろに下がった。

「大体の事情は分かったぞ」

「流石、早いな」

 そう茉莉が感心しながら言うが、褒められる経験がほぼ皆無な太郎は大袈裟に驚き、後ろに一気に下がった。

 茉莉が何か言おうとしたため、秋羽は肩に触れる事で制する。後が面倒だからな。

「おい、赤いの。お前に接触した生徒とは、この娘っ子ではないか?」

「赤西だ……ああ、そうだ」

 訂正しつつ茉莉がディスプレイを覗き込むと、生徒の顔写真と個人データが多数表示された画面が出てきた。

「少し幼いが、合っているな。これは中学時代か?」

「そうだ。これは被害者生徒から容疑者生徒、それからその四季って娘っ子のデータ、全て揃っているぞ」

「なあ、これって……」

 とある真実に気づき、秋羽がおそるおそる声をかけると、茉莉と太郎が同時に振り返った。

二人の視線を浴びながら、秋羽はとても言いにくい事を問うた。

「機密データじゃね?」


 ……


「大丈夫。違法だ」

 長い間の後、太郎はとても清々しい顔で言った。


「全然大丈夫じゃねえだろ!」


 秋羽と茉莉のツッコミが合唱し、左右から平手が太郎の顔を潰した。


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