二〇一五年 法律第一〇XXXX号
『少年法改・自白法』
第一章 対象年齢者ハアラユル事情ニオイテモ「自白」ニヨッテ裁カレル。
第二章 対象ヲ捕獲シテカラ一週間以内ニ対象ガ自白シナカッタ場合、原則トシテ対象ハ一切裁カレズ、無罪放免トスル。
第三章 対象ガ自白シ、正式ニ裁キヲ受ケルマデハ対象ノ情報ハ一切公表シテハイケナイ。
『少年法改より抜粋』
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昭和二十三年七月十五日、法律第一六八号――少年法によって、未成年の犯罪者は成人同様の刑事処分を下すのではなく、保護更生の処置によって護られた。
そして、平成二十七年。
少子高齢化問題が進む中、国は子供を平等に国の宝とし、全ての子供を護る手段を取った。それが、少年法改「自白法」の誕生である。
未成年の犯罪者はどんな状況であっても、当人の自白によって判決が下る。たとえ確かな証言や証拠が揃っていたとしても、当人がそれを認めない限り、決して裁かれず、また、自白せずに無罪となった場合はその情報の公表を禁じる。
また、自白法は民事裁判には適応されず、刑事裁判にのみ適応される。
窃盗などの犯罪は基本的に民事で争われ、刑事では争われなくなる。法改正前よりも未成年の犯罪は増える事が予想される。
しかし「自白法」は正しい選択と言える。
何故なら、警察が守るのは、人ではなく法であるからだ。
序
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世界は、不平等だ。
文明が発達して生活が豊かになろうが、社会や政治を取り巻く環境が変わり、身分制度がなくなろうが――この世界は不平等である。
それを「そういった星の生まれ」で片付くのならば、この世界は、社会は、一切の努力をしなくなるだろう。
ゆえに、この世界は――
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昭和五十七年、某月――。
「本当に、いいのか?」
すぐ傍で、男と女の話し声が聞こえた。
意識は深い底にあり、本来その声は聞こえる筈もないのだが――不思議と、全て聞こえてくる。
「ええ、いいの。私は、この子の母親だから」
「そうは言うが、それでお前が死んだら意味ないだろ。この子だって……」
「そうね。この子の成長をすぐ傍で見届ける事が出来ないのは、私のたった一つの未練でしょう。だから、せめて、この子の中で……」
ふいに誰かが僕の手に触れた。たったそれだけで、冷え切っていた身体に、温度が戻っていく。
「貴方の中で、貴方の鼓動として、生涯見守らせてね……
慈愛の満ちたその声は、安らぎを与え――徐々に、僕の意識が落ちていった。しかし今までとは違う。暗くて怖い場所に突き落とされる感覚はなく、むしろ温かな場所へ導かれるような――安心と優しさに包まれるような感覚。
――心配ない。この手が、僕を掴んでいる限り、僕は安心して眠れる。
僕の意識が遠ざかる中、男が絞り出すように言った。
「……なあ、俺は、どうすればいい」
「大丈夫。貴方なら出来るわ。産むのは母の役目。育てるのは父の役目。だから、この子の事をお願いね」
「そんな事言われても、俺には……」
「大丈夫よ、きっと。だから、どうか、この子の事……愛してあげてね」
泣き出しそうな声と、嗚咽を漏らす声。
二つの声が混じり合う中、僕の意識は完全に深い底へと落ちていった。
「こんなの、不平等だろっ……」
最後に、吐き捨てるような言葉を残して――。