余暉の所にまた行くのですか? と問う九垓を置いて、志遠は外に出た。
外に出れば『志遠』でいる必要はなくなり、本来の姿である『永華』になる。
本当はあの時、明明よりも違う事がしたかった。
それらが片付いた今やっと出来る。
――あの宮女の働き、労うにはこれくらいで良いかと志遠としてより永華は思う。
これからも期待しているとそれで示すのであれば、あの土産ぐらいでは足りない。あの余暉を使うぐらいでないといけない気がした。
「志遠様、では始めさせていただきます」
「うん、よろしく頼む」
せっせと主の為に動き出した余暉を見ていて志遠は思う。
いつ、あいつをここに呼んで来ようか。
いや、そんな事をしなくてもあの宮女は勝手に来るだろう。
その美味しい匂いを頼りにして、後宮の外に連れ出すのは無理だからひっそりとまた余暉をこの後宮に呼んだ。
そうすれば元通りになるわけではないが、美味しいとは言うだろう。
そういう奴だ、あいつは――。
「なぁ、美味しく食べてくれる者をお前はどう思う?」
「え? 何です? 急に」
「いや……」
まだ大いにこの立場でやるべき事は残っているが、次に生まれ変わる時は余暉のような料理人も良いな……と思えたのはあの宮女のおかげだろう。
ほら、耳を澄ませば、あの宮女がこちらに向かって息を弾ませ走って来る音がする。
にこりと笑うこの顔を彼女は見ることができないのが残念で仕方がない。