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金の卵同盟

 九垓と雨露は翌々日の明朝戻って来た。

 そのまま志遠の部屋へ行き、九垓は待ち構えていた志遠に報告をする。

「こちらがその汚らしい鶏卵屋の金の卵で、こちらが露店で買われた物です。そして、この小壺に入っているのがあなたが深潭に与えた最初の仕事の成果です」

「よく見つけたな、これを」

「ええ、最初に見た時はまことかと思いましたが、あの鶏卵屋の主人が言うには確かにこれで作っていると」

「深潭にはそういう才能があるのかもしれない。誰に見つかる事なく出来る力が」

「それは良いことです。志遠様がちゃんと覚えていて下さって良かった」

「そうか。それでこの金は本物かということだが、それはまだだろうな?」

「はい、時間的に無理です。それに強そうな銘朗宮の者は全員あのような状態で使えません」

「お前の助けになっていた峰風もか?」

「はい。彼は違うと思いたい所ですが、一つでも出て来てしまった物はもう隠せません。まあ、彼はそれが本物かどうか知りたかったからというでっち上げではないと思いたいような理由からのようですが」

「よくそんな話まで知っているな? 九垓。それでお前が何故早々帰って来たか教えてもらえないか?」

「噂というのはどこから聞こえるか分かりませんよ。志遠様にこの金を早くお見せしたいと深潭が言うものですから預かり、持って来ました。深潭に一人あそこに向かえと言っておきながら、あなたは余暉をも向かわせ、確実に手に入れることをなさった。一応、深潭を思うからでしょう?」

「一応ではなく、あんな所に子供一人は行かせたくないからだ。何かあったら私が助けた意味がなくなる。深潭の事は兄上も知っている。変な事に巻き込まれては大変だ」

 きっと兄上なら、そうなったらもう捨て置けと言うだろうが志遠にはできない。

「まあ、その深潭は未だ余暉と一緒に居ますがね。その方がより怪しまれることなくできるでしょうし、私なら問答無用でそれを奪い取るかもしれませんが、そんなに慎重になるならと早急に解決したいと思うものです。このように長続きでは後宮が以前にも増して意味のないものになってしまう。それは嫌かと。それに例の楽器がいつ到着するか分かりませんしね。それを志遠様直々に受け取られるというのはないでしょうし、雨露が持つのも変でしょう。それにあの二人に見られるのも嫌かと思い、私が受け取るのが良いのではないかと思いまして」

「口が減らないな。確かに瀏亮にも知られたくないものだ。お前しかいないだろう」

「そう言うと思いました」

 そこで九垓は胸を撫で下ろした。そうするなら言わなければ良いのに……と思いながら志遠は先を促した。

「他に得た事は?」

「金の卵同盟というものがあるそうにございます」

「金の卵同盟?」

「はい、山郷離れた所の話をしたのを覚えていますか? それと同じような方法で人々が金の卵を広めているようでございます」

「なるほど、人が多ければその広がりは速くなる」

「その者達を見つけるのに少々時間が必要かと」

「分かった。それはお前に任す。その中に銘朗宮と繋がりがある者がいないか探せ」

「はい」

「では、もう下がって良い。私はこれからこの金の卵と綺霞が出したとされる金を持って、陛下に現状を話して来る。そうすれば、この綺霞が出したとされる金が本物かどうか調べるのに苦労はないだろう」

「はい」

 そう言って出て行った九垓は楽器が先かそれが先か悩んでいるような気がした。

 別にその楽器を自分が受け取って、これは九垓の物だと言えば良いだろう。だが人は言うだろう、何故九垓にそんな物が必要なのかと。

 そんな面倒な事があればすぐに耳にされるだろうし、志遠は手を貸さないことにした。

 その為の九垓だ。

 雨露を少しでも使うのは許そうかと思った時だった。

 ガタッという大きい音が部屋の外でした。

「誰だ!」

 その大声に一瞬相手が怯んだかと思えば、すごすごと出て来た奴がいる。

「春鈴……」

 まったく、こいつは……。

「あの……金の卵は?」

 頭を抱える前に言われた言葉に志遠は答えていた。

「この通り……」

 それを見てぱぁ! と春鈴が破顔した。

「だが、これは大事な物だ。お前には渡せない」

「そうは言いますが、要はこの金の卵ではなく、金の殻なのです。その中身は別にいらないでしょう?!」

 それをいつ考えていたのか、食べたい欲というのは何とも罪深い。

「では、これを飲め」

 そう言って志遠がずっと隠していた物を春鈴の前に置いた。

「それは何ですか?」

「見ての通り、こうなるかもしれないと思って、日々せっせと寝ずに編み出したありとあらゆる体調を悪くさせない為に俺が直々に調合した特製の飲み薬だ。試しに飲んだ者はまだいないが、香りを嗅げば変な苦々しい黒みのある物だと分かる。それでその身を守れるならお安いだろう。さあ、これを飲んでからにしろ」

 その手は黒い小さな薬壺の蓋を取った。その一瞬で激苦げきにがな香りを辺り一面に立ち込めさせる。

「ウッ。い、え……いりません。ごめんなさい、もう食べたいなんて言いません。もしかしてこれが今までに食べたことがない美味いものってやつですか!?」

 半泣きになりながら言う春鈴の言葉でそんなことも言ったなぁ……と思い出しながら、これはその罪人にでもやるか……と考え、志遠は言う。

「違う。それより春鈴は他にやる事があるだろう? 終わらせたのか?」

 いえ! そう言わせて志遠は春鈴を追い払った。

 そして、その薬壺も持ち、志遠は天華の所へと向かった。

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