暮れて、夜深く。
後宮に無事に戻って来ると旭の歓迎があった。
何故、こんな時間に旭はここに居るのか。
問うても答えは返って来るのか知れない。
あの時、濁らせた事を守り、本当にこんな時間まで瀏亮と居たのだろうか。
その方が問題だ。
「どうでしたか? 外は」
「楽しかったです! また行くんです!」
ウキウキと春鈴は言う。
「そうですか、それで何かありました?」
「はい! たくさん志遠様がご馳走してくれて、いっぱいいろんなのを食べることができて嬉しかったです!」
まるで子供のようにキャッキャッと言う。
そんな感想を聞いても旭はにこやかに笑うだけだった。
きっと旭も自分と同じように感じているのだろう。
それ以上に追及しない。
そして春鈴も知っていた金の卵の事を言うかと思えば言わず、部屋に戻りますね! と言って行ってしまった。
そんな春鈴を見ながら旭は言う。
「良い名前ではないですか。永遠に弟を思う――それこそがあなたに贈られた物です」
「何を言っているんだ?」
「あなたがそこに住む理由です」
「それが言いたくて、こんな時間まで起きていたのか?」
「違いますよ」
では何故起きていた? 聞いて良いのか迷った。
それが良くなかったか……旭も春鈴と同じように自分の部屋へと戻って行った。
雨露も部屋に戻り、自分一人になった時にこの永庭宮の意味を今一度考えた。
旭が言った通り、その字の如く、それこそが『永悌宮』だった本当の意味であり、今では永遠に何もない庭のように空っぽなものだと言われているようだった。
何を今さら言うのか、志遠は旭を思う。
兄上に何かさせられているのか。
この後宮で? 何を――新たなそういう為のものだったら良いが……そうでない可能性の方が大きい。
春鈴の言っていた事も気になるし。
「はぁ、兄上は全然分かっていない」
このままこの後宮を離れていてはきっと取り返しがつかなくなる。
兄上だって後宮の百合の話は知ってるだろうに――その話が何なのかと兄上は言うだろうか。
昔聞いた話――黒い百合、赤い百合はずっとお互いを思っている。
けれどそれを禁じ、訪れる平和がある。
全ては己の為に――とても短い話だが、そうなる時が絶対来る。
それも避ける為に兄上には頑張ってもらわないと自分が今度は頑張らなくてはならなくなる。それが嫌だった。
決して分かったわけじゃないが、春鈴は絶対何かを隠しているし、自分もその影響を受けている。
これは何が縁か……調べるべきか、それともその時が来るのを待つのが得策か。
そして、響妃は何を財にしてそれを得ているのか――尽きぬ悩みに志遠の心がその頭上にある星空のようにときめくことはなかった。