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九垓からの情報

 浮光の一件後、春鈴は志遠の所に来なくなった。

 どうしているかと思えば、その代わりにやって来たのは話し続けてうるさいからと皇帝陛下の宦官にはなれなかったが、能力はあるので永華様の下で働かせてはどうかと旭から言われた三十代手前だがまだ全然二十代でしょ! という九垓くがいというやたら落ち着きがないわけではないが若者っぽい三十代手前の宦官だった。

 こうして志遠として会うのは初めてだが、永華の時はずっと世話役として側に居た男だ、いつもの調子で来るのは当たり前か。

「これはどうもー、様。お変わりなくお元気そうで何よりです」

「手紙の書き始め風? で、何でここにやって来たんだ?」

「情報ですよ、あと世話役として来たんです。いつまでもあそこに居たら笑われる」

 そうだろうなと思う。永華の世話役としているのにずっとそこから離れることになっていたのだから。

「守ってくれていたんだろう? 永華の居場所を」

「そう言われると聞こえは良いのですが、何せあそこは永華様が元々住んでいらした所。主人が居なければお前はいらないだろう? という視線が痛くてですね」

「まあ、そうだろうな。それは俺も今、はっきりと感じている。この永庭宮は正にその通りで主人になるはずの妃がいない。まあ、ずっとここにはその妃はできはしないから良いのだが」

「お辛い立場ですね」

 この男にしては珍しく、感情的になってくれる。

 あ、これはもう無理だ! と臨む前から試験を諦め、友人と一緒に宦官になる為の手術をしたは良いが、運が悪いことにその友人はそれで世を去ったというのに俺はそれでも宦官になるんだ! 男の人の下で働くんだ! というちょっと分からない熱い理由で現在に至るという話をしてくれた時の九垓を思い出して、志遠は言う。

「まあ、辛くはない。切り替えの早いお前だ、ずっとここに居るとか言い出さないよな?」

「え? どうして分かったんですか? そうです。世話役として来たと言ったでしょ? 他の宦官にあなたが元々住んでいた方は任せて来ました。掃除くらいですから良いではないですか。貴重品は全部こちらに移してあるんだし、ね?」

「はぁ……、それが情報か?」

「違いますよ、落ち込まないでください。あなたの仕事となるような事です。気分も引き締められるでしょう」

「何だ? その言葉の意味は?」

「はい、無事に浮光改め湖妃様になられました一件前からですか、この後宮内で『願望絵がんぼうえ』というのが密かに流行り出しているようでございます。陛下と思わしき人物に自分そっくりな女性を描かせているそうです」

「それは絵だろう? 何か問題でも?」

「寄り添ったり、いろいろとその……好色な事をさせ、あたかも自分のような感覚に陥り、それを希望として枕の下やらに置き、夢を現実に! とさせているそうでございます」

「それはまた……お前のようだな」

 志遠の言葉に少し、うっ! として苦い顔をする九垓を見れた所で志遠は言った。

「さて、それは問題になるか調べるとするか」

「はい!」

 新たな相棒かのように声を弾ませ言う九垓に志遠は内心げんなりとした。

 この男、いつも憎めない。

 きっと早く片付くと腹をくくって、志遠は永庭宮の外に出た。

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