我が兄が皇帝となって幾らばかり経った頃だったか。
珍しく、呼ばれたと思ったらいきなり皇帝陛下である
「後宮の悪を一掃する?」
「ああ、皇帝の子を作る為だ。仕方ない」
「では、宦官を使いましょう」
「駄目だ」
「何故です?」
「お前が行け」
「無理です。私は後宮へは入れません。私は皇帝であるあなたの
「そんなのは知っている。だが、俺は
先日、生まれたばかりの自分の赤ん坊が突然亡くなったことへの不信感がそうさせているのか。
これが一度目ではないからか……。
「何故すぐ行かない? 許可をしている。素直に従え。それとも、お前が後宮で何かするのか?」
いいえ、と答えたとて火に油だ。
「何度目だ? 俺が皇帝だからと精を出せば、このあり様だ。人を失望させてそんなに楽しいか?」
こちらの出方を待っているような言い方。
「それに引き換え、お前には何もない。その存在を黙認されているのか? 妻を娶れとも言われない。代々、男の皇帝の血を引いていることこそが選ばれる第一条件を満たしているのに何故だ? 俺の子がいなければ、次はお前になるだろう? 人望の差か? お前になれば良いと思う者がいるのか? それとも」
お前が取って代わる為か? と言いたそうな目に、それはないです! と言いたい。
「まあ、良い。一番厄介なのは後宮の宦官達だ。あいつ等は何故かいつも余裕を持て余していて、信用ならない。もっと言えば、旭でさえ、心から信じてはおらぬ」
それは酷い話だと思う。
何の為に彼らは皇帝である兄上にこんなにも尽くしているのか。
「そこでだ、お前なら大丈夫だと思いたいのだ。こんなに疑っているのに、お前はずっと黙ったままでいる。賢明だな、顔では答えが出ているのに」
「どういう事ですか?」
「お前はほら、前世以前の記憶があるせいだかでずっと一人の女にしか魅せられていないだろ? それも本当にこの世に生きているかも分からない奴に。空想が過ぎて、妄想し、現実の女人には手を出さないだろう?」
「だからって」
「後宮に自由に入れるように宦官になれとは思うが、その男の物を取れとは言わない。そのままの状態のお前で宦官に変装をしろ。もし、それ以後、その後宮で子が出来たりすれば……分かるだろうな?」
そこまでして、私を殺したいか、この人は――と思う。
「お前が犯人か、もしくは宦官でない奴がその中にいるということだ」
あぶり出すのか、その犯人を。
そして、この者のようになると見せしめるのか、残虐に残酷な方法で己の権力を誇示したいのか。
呆れながらも皇帝陛下の異母弟である
「分かりました。そこまでおっしゃるなら、再度、宦官を信じてもらえるように致しましょう。そして、子を望めるように、何の不自由もなく、のびのび元気に大きく成長できるように尽力致しましょう」
それは前世が後宮の宦官だった永華にとっても一大事であった。
宦官の名誉回復の為にも永華はその後宮の宦官の一人である