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幼き日に

 いつの日だったろう。

 美味しいご飯、おやつ、食べ物が食べられる! とそんな淡い希望に乗せられて、この後宮の宮女になってしまったのは――。


「うぇーん!」

 と後宮内で泣いていた幼女にその少年は自分が最愛の母から頂いた宝物みたいなお菓子を躊躇うことなく差し出した。

「これで泣き止んでくれ」

 初めての事に幼女は戸惑い、躊躇いながらも受け取ると口の中、いっぱいにそれを頬張る。

「おいしいー!」

 それは幼女が初めてまともに喋った出来事になった。

「そうか、美味しいか」

 にっこりと優しく少年は微笑み、得体の知れない妙な癒されて和む気持ちでいっぱいになった。

「お前はどこの者だ? 迷子か? ん?」

「まいご?」

 首を傾げられて当の本人だけでなく訊いたこちらまで困ってしまう。

「こんな時にきょくでも居ればな……。兄上に見つかったら騒ぎだし……」

 と悩んでいれば、幼女と同じ年頃の幼女がここに居たのね! と手をしっかり握り、連れて行ってしまった。

 お礼の催促など、あのような幼女にはできない。

 自分よりも二、三歳は年下だろうか。

 それなのにもう親元を離れ、後宮の宮女になるべく勉強をしているのだろう。

 自分は……。

 未来として確実にあるのは皇帝陛下となられるであろう兄上の役に立たなければならないし、前世以前の記憶の導きによって出会えると信じ続けている女性の事もある。でも、それを悟られてはならない。

 何故なら、後宮の宮女になってしまってはまた手を出せなくなるからだ。

 あの幼女がまだこちらを見ているのに気が付いた。

 前を見て走れないものか。

 転んだら危ないぞ……と思う。

 あの幼女はまだ手にあのお菓子を持っていた。

 早く食べなければ誰かに見つかり、怒られるだろう。

 どうして全部食べない。

 にかっと笑われた。

 笑っている間に食べてしまえと思う。

 どうしてこうも歯痒いのか。

 幼女に会って最初に思ったのはその泣き声のうるささ、それから彼女に喜んでもらえる方法。

 どうしてあの時、あの幼女を捨て置かなかったのか、自分でも分からず首を傾げる。

 時々そんな幼少期を思い出しては、餌付けしてしまった自分を呪っている。

 もう少し違う再会をしていたら、今とは違った未来があったかもしれないのに、今日もまた彼女は美味しいものを求めて、自分の所にやって来る。

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