ファブリス達は現世界に戻って来た。それと同時にファブリスが最初に出て行ったあのファルマスィ・コワンの扉は閉じられた。
それから、創世界にいる間、持っていた『レヴリ・クレクール』をデフロットにファブリス達は返した。
そして、デフロットは落ち着いてファブリスに言った。
「では、聞きましょうか。ファブリス・クレティアンの『自由な童話』を」
そう言われてファブリスは、
「うん」
とデフロット・カペーに強い思いを持って言った。
これまで創世界にいて起こった全ての事をファブリスはその時感じた思いと共にデフロットに話した。
その近くには珍しくイニャスとセリアもいた。そんなに心配ならとデフロットが近くで聞きますか? と二人に言ったからだ。
デフロットに提案されたら逆らえない。だから、二人は黙ってファブリスの話を聞く事にした。
ファブリスの話が終わった後、デフロットはにっこりファブリスに笑って言った。
「それは大変でしたね。そうですか、それではこれは今まで頑張ったファブリスにご褒美として差し上げましょう」
そう言ってデフロットはあの紺色の優しい花の良い匂いのするファブリスの小指くらいの小さなガラス瓶に入った液体をファブリスに手渡した。
「持って行きなさい」
ファブリスはそれを受け取ると素直にデフロット達にお礼を言った。
「どうもありがとう! デフロット・カペー! それにイニャス! セリアも」
「早く帰りなさいな、ファブリス」
「家族がきっと、君のことを待ってる」
「うん! ありがとう!」
ファブリスはまたここに来た時と同じように同じ道を通って自分の家へと帰って行った。
「元気でな! ファブリス・クレティアン!」
それを見送るイニャスの声が最後に聞こえて来た。
(もうすぐ、ノエルだ! この薬はきっとマリテのすてきなプレゼントになるんだ!)
そう思うとファブリスはもっと早く走ろうと頑張った。
もうあの子がこの家を出て行ってからどのくらい経つだろう。
今日は年に一度のノエルだった。
ファブリスの家族はファブリスの帰りを祈り続けていた。自分達ができなかったことをファブリスができるわけがないと思っていた。
「今日もあの子は帰って来ないのかい?」
「ええ、そうみたい」
ファブリスの祖母はファブリスの母に言った。
「あの子は本当に困り者だねぇ。いくらあの薬屋がすごいって話を聞いたからって。やっぱり、お前さん達の息子だねぇ」
母は苦笑いをするしかなかった。
「さあ、マリテここに座って」
ファブリスの父は目の不自由なファブリスの妹、マリテを椅子に座らせた。
「さあ、皆も座って」
そうして、家族皆でファブリスのことを祈ろうとした時だった。
「ただいま!」
と聞き覚えのある少年の声が聞こえた。
母は一瞬でその声が自分の息子の声だと分かった。
「ファブリス!」
その母の一言で皆驚いた。
父は急いで家の扉を開けた。
「ファブリス……」
家の外のファブリスの元気な姿に父と母と祖母は安心して泣いた。
マリテだけがどうなっているのか分からないでいた。
「パパ、ママ! 見て、これでマリテの目が治るよ!」
そう言う息子が出してきた薬を手に取り、父は怪しげに見上げた。
どう話しても信じてもらえなければ試さなければいけない。
ファブリスはマリテにその薬を使った。
そこら辺で売っている目薬と同じように使うとマリテの両眼に光が初めて宿っていくのがみえた。
「どうだ、マリテ?」
父は心配そうにマリテに訊いた。
マリテはゆっくりとその両眼を開けた。
「これが『見える』っていうことなの?」
それを聞いたファブリス達家族は喜んだ。
その薬はマリテにとってというよりマリテ以外の家族にとっての最高のクリスマスプレゼントになった。
マリテはそんな家族を初めて見て、
「ペール・ノエルやガトーがなくても良いわ」
と言って喜んだ。
父と母は自分達ができなかったあのファルマスィ・コワンから薬をもらうという事をやってのけたファブリスを見直し、微笑ましく思い、胸を張って『自慢の息子』と『幸運な娘』を持って嬉しいと言って近所の人達に自慢し続けた。
そんな近所の人達の中にはそんな二人の子供を忌み嫌う者もいたが、二人の子供に『恐ろしい子』という気持ちは両親と祖母には一切なく、ただ愛する我が子達が元気で幸せにという願いを持ち続けた。それは、二人の子供も同じでこの先も何かあったとしても幸せや喜びを忘れずに悲しみを乗り越えて生きたいと思い願うのだった。
今日もまたファルマスィ・コワンの扉は開かれる。
そして、また繰り返す。
誰でも最初は受け入れるが選別し続ける。
望み多き者がその望む物を手に入れるためにこの店の主人、デフロットは訊く。
「君は何が欲しい?」
その答えが返ってくると必ずこう言った。
「それなら僕に『自由な童話』を。それが君の求めるこの薬の代価です」
と、彼は優しくそう言い続けるのだった。そして、二人の男女を使い永遠に捕まえ切れないものを捕まえ続けるのだった。