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たゆたうフォレ

 創世界のどこかにあるたゆたうフォレにはデフロット・カペーの所有する全ての『レヴリ・クレクール』があちらこちらに気ままにたゆたっている。

 この中にある『レヴリ・クレクール』をリヌとアベルと呼ばれる姿が見えないものが現世界にいるデフロットに届けている。

 その客が気に入る『レヴリ・クレクール』を探すのは得意だった。その客の欲しいという気持ちが強ければ強いほど迷わず探しられる。それ故にファルマスィ・コワンの店の扉はその客の思いを知る手掛かりとして創られている。ファルマスィ・コワンの創始者がいた頃からそうだった。

 だが、デフロットはその『レヴリ・クレクール』がどうやって選ばれているのか、探し出せるのか今も知らないでいた。それでも、客にそれを預けるのはその二人が『レヴリ・クレクール』自身が求めたものだと知っているからだろう。

 デフロットの用が済んだらまたリヌとアベルがこのたゆたうフォレへと『レヴリ・クレクール』を放せばまた自由気ままに『レヴリ・クレクール』はたゆたい続ける。決して『レヴリ・クレクール』自身から消滅することはない。消滅する時はその思いが不要になった時だ。だから、『百の聖なる月水夜』があるのかもしれない。


 優しい風が変わった。たゆたうフォレに生えている木、『安らぎのラルブル』の枝がさわさわと揺れた。

 笛の音に誘われてたゆたうフォレの『レヴリ・クレクール』も現世界にある『レヴリ・クレクール』も誰かに所有されている『レヴリ・クレクール』も所有されていない『レヴリ・クレクール』も……全ての『レヴリ・クレクール』が百の聖なる月水夜のためにあの谷の近くにある昔、湖だった一か所へと移動を始めた。

 その全ての移動が終わった時、たゆたうフォレには一つの『レヴリ・クレクール』もなかった。

 空っぽになったその森にまたたゆたう日が来るのは百の聖なる月水夜が終わるまでだった。


 デフロット・カペーの部屋に置いてあったプティ・ランタンの中に入っていた全ての『レヴリ・クレクール』が何もしてないのにプティ・ランタンの中からふわふわと外へ出て来た。そして、そのまま創世界へと続いている扉の中へ入って行った。それを静かに確認したデフロットはセリアにいつもと変わらず言った。

「では、私達も行きましょう」

「え?」

「『百の聖なる月水夜』が始まる」

 そう言ってデフロットはそのままの格好で『レヴリ・クレクール』が通って行った道を辿り出した。

 それを見たセリアも急いでデフロットの後を追い掛けることにした。

 そのデフロットの手には淡いレモンイエローのレヴリ・クレクールがセリアの手には白く輝くレヴリ・クレクールがそれぞれ頑丈な黒のプティ・ランタンの中に入っていた。

「この二つのレヴリ・クレクールがあれば私達も無事に見れますよ。ファブリス・クレティアンとイニャスのレヴリ・クレクールも無事でしょう。思いの強い二人ですからね」

「それはそうとそんなに楽しいんですか? その『百の聖なる月水夜』って」

「ええ。でも、セリアには楽しくないかもしれませんね。あれは静かに幻想的な『レヴリ・クレクール』の生誕と死をただ見るべきものですからね」

 誰もいなくなったファルマスィ・コワンの創世界に続く扉はずっと開かれたままだった。

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