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フェ・プレズィール国

 全て異なる色の誘うリュミエールの入ったランタンを持った三人と一匹は迷うことなく次の目的地である妖精国『フェ・プレズィール国』に到着した。

「ここが緑の誘うリュミエールがある場所か」

 そう言ってイニャスは少し気合いを入れるために軽くその場で身体を動かした。

 それを見ていたセリアは言った。

「全くあんたの気合い入れっていつも違うわね」

「良いだろ。自分の思うままのやり方が一番しっくりくるんだから」

 そんな二人の様子を見ていたファブリスはジェジェーヌ・クーレがいつの間にかここにいないことに気付いた。

「あの、ジェジェーヌ・クーレがいないんだけど……」

「え!」

 二人は驚いたが何だか嬉しそうだった。

 その声をフェ・プレズィール国の中から聞くまではだったが。

「わん、わん! さあ、来い! 君達よ! 話はこのジェジェーヌ・クーレがつけといたぞ!」

「何の話だ」

 イニャスがこちらに歩いて来るジェジェーヌ・クーレに不満そうに訊いた。

「決まっているだろ! 一刻も早く見つけなければならない『百の聖なる月水夜』のことだ」

「それよりもまずは緑の誘うリュミエールだ」

「あん! ん?」

「何だ?」

 イニャスはジェジェーヌのしまった! という顔に不安を覚えた。

「それについては何一つ話していない。私が見たところそれらしいのはなかったが」

「それは奥まで見に行っての事か?」

「いや、奥は今夜の『フェ・プレズィール国生誕前夜祭』そして、その翌日の早朝から行われる『フェ・プレズィール国生誕祭』の準備で忙しそうだった。とても探すことなんて出来そうになかった」

「生誕祭?」

「そうだ、セリア。この国も長いことこの創世界で生き延びて来た。それを年に一度祝うのだ。彼等達は喜ぶのが好きだからな」

「それとこれとは話が違う。デフロットの話ではここに『緑の誘うリュミエール』があると言っていた。なら、分かるだろ? ジェジェーヌ・クーレ、俺達はそれを見つけ次第捕まえ、デフロットに渡さなければならない。何があってもだ」

「しかし……」

「お願いよ、ジェジェーヌ・クーレ。探せるように妖精達に言ってきて」

「だが、それは私の仕事ではないのではないか?」

 ギクッと二人はなった。

「チッ、やっぱり当初の計画通りこの国に忍び込むか」

「あんただけがね」

「な!」

 イニャスは次の言葉が出てこなかった。セリアが次に言う言葉は大体予想が付いたからだ。

「『賭け』負けたのあんたでしょ?」

「はいはい、分かりましたよ」

 イニャスはすぐにそれを認めた。

「そうですか、では、参りましょうか」

 突然、三人の前にジェジェーヌ・クーレよりも小さな青年の姿をした妖精が現れた。

 三人は今、どこから! と同時に思った。

「ああ、驚かせてしまいましたか? では、少年の姿になりましょうか」

 そう青年は言うと音も立てずにきらきらした粉を巻き起こしてやはり、ジェジェーヌ・クーレよりも小さい少年の姿になった。

「ようこそ、フェ・プレズィール国へ!」

 少年は両手を大きく広げて三人に向かってにかーっと歯を見せて少年のように笑った――。


 多くの緑と水に溢れた自然に恵まれた妖精国『フェ・プレズィール国』に住んでいる花の妖精、フェ・ロイーズ・フルールの案内でジェジェーヌ・クーレは『百の聖なる月水夜』をファブリス、イニャス、セリアは『百の聖なる月水夜』を探す振りをして緑の誘うリュミエールを探していた。

「いやー、実に素晴らしい魔法だった」

 ジェジェーヌ・クーレはフェ・ロイーズ・フルールにそう話し出した。

「今日が生誕祭なんて信じられない。あの素晴らしいお祭りがまた見られるなんて!」

 と言いながら昔の事を思い出しているのだろうか? 少し、静かになった。

 その間にフェ・ロイーズ・フルールは三人の人間に少年っぽく謝った。

「ごめんな、おいらやっぱり、妖精だからつい人間を見ると驚かせたくなるんだ」

 そう言うフェ・ロイーズ・フルールの手にはランタンがなかった。また、羽根も生えていなかった。

 そこでファブリスは一行の最後を歩くイニャスにぼそっと小さく訊いた。

「ねえ、イニャス? 何でフェ・ロイーズ・フルールはランタンを持っていないの?」

「はあ? よく見ろ、ファブリス。あのよく喋る案内犬もランタンなんか持ってないだろ? この創世界に暮らしている連中は『誘うリュミエール』なんてなくても迷わず歩けるし、現世界から帰って来れるんだ。どんな時でも持っていなければならないのは現世界に住んでる俺達だけなんだ。それも誰かが所有しているものの方が良いと聞く。まあ、ジェジェーヌが言うにはだがな。だから、本当は必要がないはずだ。なのに、創世界の連中もこの誘うリュミエールを欲している」

 そこまで言うとイニャスは緑の誘うリュミエールがどこかにないかと顔はあまり動かさないようにしてキョロキョロ眼だけで探した。

「やっぱり、ないのかね、緑の誘うリュミエール」

「緑? 誘うリュミエール?」

 フェ・ロイーズ・フルールはイニャスが変なことを言っていると首を傾げた。

 疑問を持ったフェ・ロイーズ・フルールを見てジェジェーヌ・クーレは本来の名前を告げた。

「ああ、それは『レヴリ・クレクール』のことだ」

「へー。あれのことか?」

 イニャスの言葉を理解したフェ・ロイーズ・フルールにそう言われた一行は最終準備段階に入った生誕祭の広場の中央を見た。

 そこには緑色に光る『誘うリュミエール』が浮いていた。

 イニャスはそれを見て少し興奮した。

「あれは!」

「今夜のフェ・プレズィール国生誕前夜祭で使われるものだ。だから、間違っても今夜持って行こうなんて思うなよ。その時はおいら達が一斉にお前等に襲い掛かるからな」

 ファブリスが怖い! と思った時、一人の妖精がフェ・ロイーズ・フルールの前に出て来た。

「じゃが、今夜のフェ・プレズィール国生誕前夜祭が終わればそのものの用はなくなる。さすれば争うことなくあのレヴリ・クレクールはお主等のものとなる」

「フェ・ガエタン・アストル!」

 そう呼ばれた天体に詳しい妖精はやはり羽根が生えておらず、ジェジェーヌ・クーレよりも小さく老人の姿をしていた。

「フェ・ロイーズ・フルール、そんな顔をするな。あれはレプリカじゃ。本物はいつも分かっておるじゃろ?」

「はい……」

「では、今夜の夜が明けるまで待って下さりますかな? お主等」

「ええ、では、今夜の夜が明けるまで待ちましょう。その翌日の朝が来たならばあの緑のレヴリ・クレクールを私達にお譲りください」

 セリアはそう言って下手に出た。

「分かりました。この事は皆もう知っております。どうぞ、その時が来たらお持ちください」

 と少女の姿をした雨の妖精、フェ・メレーヌ・プリュイが言った。やはり、ジェジェーヌ・クーレよりも小さかったが羽根が生えていた。

 少し、距離がある時は羽根を使うらしい。

 そして、フェ・ロイーズ・フルールに向かって言った。

「もう、人間を困らせないの!」

「だって、おもしろいだろ?」

 とフェ・ロイーズ・フルールは笑いながら言った。

「こんなに簡単で良かったのか?」

 と隣にいたジェジェーヌ・クーレにイニャスは訊いた。

「有り難く思え。彼等は決して嘘は付かない」

「だったら、あとはもうその『フェ・プレズィール国生誕前夜祭』と『フェ・プレズィール国生誕祭』を楽しんでその緑の誘うリュミエールをもらうだけだね!」

 とファブリスは皆に言った。

「そうだとも!」

 とジェジェーヌ・クーレだけが大はしゃぎしながら答えた。


「これが『フェ・プレズィール国生誕前夜祭』か? とても祭りには思えんが」

 それまで黙ってそれを見ていたイニャスはそれについての感想を言った。

 ファブリス達は『フェ・プレズィール国生誕前夜祭』を良い席で見せてもらっていた。

 ファブリス達の目の前には緑の誘うリュミエールによく似た緑色の蕾のようなものが立てられていた。その周りを緑の誘うリュミエールはたゆたっていただけだった。

「ああやって太陽の陰の光を月から集めるのじゃよ。見よ、あれが本物の『スュプレーム・プランタンの蕾』じゃ!」

 フェ・ガエタン・アストルは緑色の蕾のようなものをそう説明した。

 その説明をされてから随分と時が経った時、そのスュプレーム・プランタンの蕾はキラキラとさらに輝き出し、自ら緑からほのかな赤みを感じられる色となった。

 それを見たフェ・ガエタン・アストルは思わず言った。

「やや! あれが出て来たということはもうすぐじゃ、もうすぐわしらの出番じゃ!」

 同時にそれまでの動きからはとても想像出来ない程生き生きとし、その場にいた全ての妖精達と一緒にどこかに行ってしまった。

 その場に残された三人と一匹はあれこれ言いながらそのスュプレーム・プランタンの蕾が徐々に鮮やかな赤に色付いていくのを見守り続けた。

 そして、夜が明け、朝日が昇る頃になるとそのスュプレーム・プランタンの蕾は月の光から太陽の光を一心に浴び続けていた。そして、今にももう咲かんとばかりになるまでふっくらと成長していた。

「ジェジェーヌ・クーレ、もう、朝になるわ。前夜祭を放っておいたあの妖精達は今どうしているの」

 とセリアはジェジェーヌ・クーレに訊いた。

「ヘヘッ、この国の前夜祭とはこれから始まる『フェ・プレズィール国生誕祭』をもっと楽しむために妖精達がそれぞれ思う服をあれこれ考えながら作るのだ。その開始時間がこのスュプレーム・プランタンの蕾が月にある太陽の陰の光を十分に浴び、ほのかに色付いてからとなっている」

「じゃあ、フェ・ガエタン・アストル達が消えてしまったのもその服を作るためなんだね」

「ああ、ファブリス、その通りだ。彼等は働き者だからね」

 そうジェジェーヌ・クーレが言い終わるとスュプレーム・プランタンの蕾はファブリスが見たこともないほどの美しい赤の花をキラキラと咲かせていた。

 やはり、その周りには一つの緑の誘うリュミエールがたゆたっていた。

 それを見つけた一人の妖精がゴージャスな桜色の服を着てこちらに飛んで来た。

「おお、月と朝日を浴び咲いたスュプレーム・プランタン・フルールよ! 今から我等が作る花で祝おう! 今年の『フェ・プレズィール国生誕祭』を!」

 フェ・プレズィール国の妖精王がその花に向けてそう言い放つと他の妖精達が姿を現し出し、思い思いの自分達で作った服を着てそれぞれの位置に付いた。

 そして、『フェ・プレズィール国生誕祭』が始まった――。


 全ての始まりは一本の赤の花から始まった。

 その花から生まれた最初の妖精はまだ青い蕾のままでいる近くの花に手を触れた。

 すると、不思議な事にその花もまたその周りの花もそこにある全ての花が一斉にぽんぽんと咲き始め、その中からその妖精の仲間達が生まれた。

 その生まれた妖精達は手当たり次第に手を触れ続けた。

 その妖精達のことを『生命の妖精達』と呼ぶ。

 生命の妖精達から生まれた妖精達は花だけではなく木や水、全ての自然から生まれ育った。

 そうして、『フェ・プレズィール国』が出来ていったのだというのを今、妖精達は歌い踊りながらそれを表現しているのだとジェジェーヌ・クーレはファブリス達に教えてくれた。

 その妖精達の歌や踊りは実に楽しかった。

 ある妖精はくるくる回り続け、羽根から出て来る不思議な粉を撒き散らし、鮮やかさを演出していた。

 ある妖精は喜びのあまり声が出なくなったのか他の妖精達に心配されていた。

 フェ・ロイーズ・フルールは青年の姿でフェ・メレーヌ・プリュイと楽しくステップを踏んでいた。その横ではフェ・ガエタン・アストルが変な歌を歌いながら腰を左右に振り続け周りの妖精達を楽しませていた。

 そして、最後に妖精達が一団となって一つの花の蕾を作った。

 それはあのスュプレーム・プランタンの蕾と同じように一つの花が生まれるまでの姿を表したものだった。

 茎の部分を担当しているのは男の妖精達で一番下にされた妖精は上の妖精達の重さに必死に堪えているようで顔が少し赤かった。

 そして、一番の見せ場となる花の部分を担当しているのは女や子供の妖精達だった。

 女の妖精達は花の形を作りながら自分達の着ている服や髪を花弁に見立てひらひらと上に向かって飛び続け、不思議な粉を朝日に輝かせていた。

 子供達は空を飛びながら本物の花弁を一枚、一枚千切ってファブリス達の方やスュプレーム・プランタン・フルールに向かって下に落とし続けていた。

 それはとても華やかなものだった。

 ファブリス達の前には花の蜜を使ったご馳走がたくさん置かれていた。

「この蜜はとても美味い!」

 と言ってイニャスとジェジェーヌ・クーレはごくごく普通にその蜜を飲んでいた。

 セリアも楽しそうだった。

 ファブリスは知らなかったこんなに楽しい一時があることを――。


「これで今年の『フェ・プレズィール国生誕祭』は終わった。また、来年も素晴らしい生誕祭にしようではないか!」

 とフェ・プレズィール国の妖精王は言った。

 そして、スュプレーム・プランタン・フルールの周りでたゆたい続けた緑の誘うリュミエールをファブリス達の方に持って来てくれた。

「これはそう簡単に人の手に渡すべきものではない事は存じておるな」

 それまでの口調とは違い、威厳のある声で妖精王はイニャスとセリアに言った。

「はい、それはもう」

 イニャスの口の聞き方にセリアは眉をひそめた。

 それを聞いた妖精王はその誘うリュミエールを持ち続けて言った。

「では、これを。我等は嘘は付かないが人の手にこれが渡る事を良しとはせん。だが、誰かが喜ぶのであれば喜んで手を貸そう」

 そう妖精王は言うと迷わずイニャスの持っていた専用のプティ・ランタンの中にその緑の誘うリュミエールを入れた。

「ありがとうございます」

 セリアは妖精王にそう言って深々と一礼をした。

 妖精王はセリアのそれを見て一回頷き、ジェジェーヌ・クーレの方を向いた。

「そういえばジェジェーヌ・クーレよ、お主の探しておる『百の聖なる月水夜』はどうだ? 見つかったのか?」

 そう言われてジェジェーヌ・クーレは一瞬はて? という顔をして首を左右に振った。

「あん?」

「お主は『百の聖なる月水夜』を探しにこのフェ・プレズィール国に来たのであろう?」

「は! 思わずフェ・プレズィール国生誕祭を心から楽しんでしまったせいで何も探せていない!」

 そんなジェジェーヌにイニャスは苦笑いをした。

「おいおい、そんな事で良いんだったら俺達がついて行かなくとも良いだろ」

「そんな事はない! 人数が多ければ多いほど助かる時もあるのだ」

 そして、ジェジェーヌは妖精達をキュンとした目で見つめ続けた。

 妖精王は仕方なく他の妖精達に訊いた。

「誰かこの中で何か『百の聖なる月水夜』の事を知る者はおらんのか?」

「そう言われてもですね」

 とフェ・ロイーズ・フルールは青年の姿で困ったように言った。

「フェ・ガエタン・アストルは何か知らないのか?」

 と妖精王はフェ・ガエタン・アストルに訊いた。

「はい、もしかするとエール・スィエル・アスピラスィオンにてそれが見れるかもしれません」

 とフェ・ガエタン・アストルは天を見ながら言った。

「それは本当ですか! いや、こうなったら嘘でも良い。行くぞ! 皆」

 と言ってジェジェーヌ・クーレはまた元気に走りだそうとした。

「でも、どこからそのエール・スィエル・アスピラスィオンに行くんだ?」

 とイニャスは妖精達に訊いた。

「それはこちらにあるフェ・プレズィール国に唯一、生えているスリズィエから上ることが出来ます。この木の天辺まで来るとそこからは『アスピラスィオンの梯子』を上ってその国へと目指すことが出来ます。また、そこから下りることも可能ですよ」

 そう教えてくれたフェ・メレーヌ・プリュイは今にもそのスリズィエの所まで案内してくれそうだ。

「じゃ、あたしはこの三つの誘うリュミエールをデフロットの所に持って行ってあんた達の帰りをデフロットと一緒に待っているわ」

 とそう言ってセリアはイニャスから緑の誘うリュミエールの入ったランタンを取り、その場を颯爽と去って行ってしまった。

「早!」

 イニャスがそう言うとジェジェーヌ・クーレは行くぞ! と皆の先頭に立ち、そのスリズィエを目指し走った。

 それを見てフェ・メレーヌ・プリュイはジェジェーヌ・クーレに追い着こうと不思議な粉を撒き散らしながら飛び、大声で叫んだ。

 その姿は幼女だった。

「ジェジェーヌ・クーレ! あなた、わたちの案内無しでスリズィエまで行けるの?」

 その声にジェジェーヌ・クーレは立ち止まった。

「あん? いや、無理だな。ヘヘッ、フェ・メレーヌ・プリュイ、私の前を歩いてくれ」

 そう言って少女の姿に戻ったフェ・メレーヌ・プリュイの後に続くことにしたジェジェーヌ・クーレだった。

「どうしようもない、案内犬だな」

 とそれを見ていたイニャスはまた苦笑いし、ファブリスにこう言った。

「さあ、行こうか。ファブリス・クレティアン」

 ファブリスはイニャスの言葉に元気良く、

「うん!」

 と頷き、先を行くジェジェーヌ・クーレに追い着こうと小走りになった――。


 ファブリスが入った扉からセリアは現世界に戻って来た。

 ファブリスが入って行った扉はセリアが帰って来ても開かれたままだった。

 セリアはまず、創世界で着ていた動きやすい服から現世界でいつも着ている服に着替え、用が無い時はいつもその部屋にいるデフロットに会うために三つの誘うリュミエールを持ってそこに向かった――。


「只今、戻りました」

「御苦労でしたね。セリア」

「いえ」

 デフロットの部屋でセリアはデフロットにそう言われると紅と赤と緑色の誘うリュミエールを椅子に座っているデフロットの前に差し出し、言った。

「それから、イニャスですが」

「分かっています。イニャスとあの少年、ファブリス・クレティアンはジェジェーヌ・クーレと『百の聖なる月水夜』を探しているのですね」

「はい」

 セリアはそれだけ答えた。

 デフロットはその三つの誘うリュミエールをセリアから受け取ると自分の後ろにある棚に並べて置いた。

 誘うリュミエールはずっと光り続けている。

「そうですか。早く見つかると良いですが」

 セリアはデフロットにファブリスに会ってから思っていた質問をした。

「デフロット・カペー、一つ、お訊きしてもよろしいですか?」

「何です?」

「本当にファブリス・クレティアンは『自由な童話』を手に入れられるんでしょうか?」

 セリアにしては珍しいとデフロットは心の中で思った。

「そうですね。私は信じていますが」

 そうセリアに言いながらデフロットは誘うリュミエールが置いてある棚とは反対側の棚にあるファブリスに渡すはずの薬に手を伸ばした。

 その薬は今も良い匂いがする。

「あの子がもし、話すのが今、あの子が体験している体験記だったらそれは『事実』になってしまうのではありませんか? そうだとしたら――」

「いえ、セリア。君の心配には及びません。何故なら、その体験は『現世界』のものではないからです。『創世界』で体験したものであればそれは楽しい『自由な童話』になるのです」

 そう言ってデフロットはセリアに微笑んだ。

 とても面白そうに――。

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