それから、ボクは初めての行動に出る。
ボクは2人の帰り道を、車椅子で尾行する事にした。
良くない、気持ち悪い事だって分かっている。けれど、ゆうちゃんの事をもっと知りたい……そんな感情を抑えきれなかった。
あんちゃんとどんな話をして、どんな表情をしているのか……全部を知りたくて仕方がなかった。
『それでね、家庭科の授業でこんな事があってさ~』
『へいへい』
『ちょっと! お兄ちゃん聞いてる!? 明日の朝ご飯作らないよ!』
帰り道、あんちゃんの話をゆうちゃんはぼんやりと聞き流しているようだった。
何だか、他に別の事を考えているみたいだった。
すると、ゆうちゃんは突然歩く事を止め、その場に立ち止まった。
『お兄ちゃん?』
『……あの子、ずっと俺達の跡をつけて来てないか?』
そして、ゆっくりと振り返ってボクの姿を視認する。
ボクはその場で完全に硬直してしまった。
しまった。周りに人も多かったし、気付かれる訳が無いと完全に高を括っていた。
自分の姿を見られてしまった事で、ボクはパニックに陥る。全身から汗が吹き出るのが分かった。
『え、あの、車椅子の子?』
『ああ……杏奈の知り合いか?』
『知らないよ…….お兄ちゃんのファンじゃないの? 女の子だし』
『いや、知らないな』
『……ねぇ、もう良いから早く帰ろうよ。何だかずっとこっちを見てて、気持ち悪い』
『あ、ああ……』
『今日はハンバーグ作るから、これから買い物付き合って! 挽き肉が安いスーパーが駅前にあるんだよね~』
『また肉かよ! 今日くらい野菜メインの料理に……』
『うるさい! 私が肉食なんだから、塚原家の献立は肉が主食! 嫌ならお兄ちゃんが作る?』
『いえ……夕食、お願いします……』
『分かれば宜しい』
『気持ち悪い』と、そう言い残して2人は消えて行った。
当たり前だ、ボクの様な人間に尾行されていたら誰でもそう思うだろう。ボクは自身の行動を激しく後悔する。
そして、2人はボクの事など覚えていなかった。
もちろんあれから何年も時間が経っているし、傷を負った今のボクを見て優姫だと思い出して貰える訳が無い。最初から期待なんてしていなかったけれど……それでも、やはり自分の存在が2人の記憶から消えている事を実感すると、辛い。
「ボクの知らない世界だ。ボクの知らない世界で、皆は生きているんだ。あの夏の日から時が止まっているのは、ボクだけ。ボクだけなんだ」
ボクはしばらくその場から動けず、時間だけがゆっくりと過ぎていく。
生きているのが辛い、もう死んでしまいたいとボクは心からそう願った。