「優姫!」
「もう、騒がしいって。もう少し静かに……」
それから数日後、また兄さんは高いテンションで病室へとやって来た。
「例のサークル、通い始めたんだろ!? どうだ、 友達は出来たか!?」
「まぁ、うん……」
兄さんの言う通り、ボクは例のサークルに参加する事になった。最初は父さんが付き添ってくれて、手続きやら色々と済ませてくれたのだ。
週に2~3回、数時間の活動なので大した事でもないのだが、兄さんはボクが新しく何かに挑戦したという事が何よりも嬉しかったらしい。
「良かった……本当、良かった」
ボクの答えに、兄さんは目に涙を浮かべる。
「俺以外にも、優姫と遊んでくれる友達が出来たんだな……本当に、本当に良かった」
実の兄ながら、本当に世話焼きな人だと思う。それに本当に優しくて、純粋だ。
「……うん、兄さんのおかげだね。こちらこそありがとう」
「友達が出来たって聞いたら、父さんと母さんもきっと喜ぶぞ!」
大喜びする兄さんとは対照的に、ボクの心は沈みきっていた。
「そっか……それは、良かった」
何故なら、本当はあのサークルで友達など出来ていないからだ。
チラシの内容通り、確かにサークルには身体的・精神的に障害や疾患を抱えた子供や学生達が何人も集まっていた。
中にはボクと同年代であろう子達もいて、サークルの雰囲気自体は決して悪いものでは無かった。
けれど、ボクは相変わらず誰かと話したり、遊んだりする気にはなれなかった。何かが嫌だった訳ではない、ただ……ボクはショッピングモールの出来事から他人へ完全に心を塞ぎ込んでいた。
『ねぇ、倉田さん……だっけ』
それから数回サークルへ参加していると、ボクへ話し掛けてきた子がいた。
『……なに?』
見たところ、恐らく同じくらいの歳の女の子。理由は知らないが、その子には片腕が無かった。
金髪で、目つきの鋭い気の強そうな女の子。
彼女もまた、同じ境遇の仲間を求めてここに来たのだろう。
『私は芹那っていうの。倉田さんはさ、何かの事故?』
『事故?』
『車椅子だから交通事故かなって。なんか身体の傷跡とか凄いし、多分生まれつきじゃないよね』
彼女……芹那は何の躊躇も無くボクの過去について詮索してくる。あまりの無神経さに少し驚くが、ボクは彼女と目も合わせずに口を開く。
『……事故じゃないよ』
『え、じゃあ何?』
『……言う必要、あるの?』
単純に話したくないというのも事実だが、そもそも糸田議員との約束で事件の事は口外出来ない。口外するつもりもないが、改めて自身の過去について無神経に探られるとやはり不快な気分だ。
『ここの子はみんな事情があって来てるんだし、わざわざ隠す必要も無いじゃん。あんた、ここ来てからまだ誰とも話してないでしょ? 交流するつもりあんの?』
ボクの返答に腹を立てたのか、芹那はボクを睨み付けながらそう言った。
もう、放っておいて欲しい。友達なんていらないからボクに構うな、心の中でボクはそう呟く。
『……無いよ。だから、ボクの過去を君に話す必要も無い』
『……あっそ』
芹那はそう吐き捨てて、その場を去って行った。
その日のサークルも、ボクは時間が過ぎるまで1人で過ごした。