それから、兄さんが病室へ来る頻度が減った。父さんと母さんは仕事で忙しいらしい。糸田議員が『スポンサー』になった事で、うちの和菓子屋は今までにないくらい繁盛している。そして、きっと2人はボクの顔を見て現実を目の当たりするより、忙しく仕事をしている方が楽なんだろう、お見舞いには殆ど来なくなった。
それに加え、ほぼ毎日病室へ来ていた兄さんも来なくなるとボクは本当に1人だ。
あのショッピングモールでの出来事以降、何だが『生きる』という事へのモチベーションが下がってしまった様な気がする。
メイクをして、ネイルをして、お洒落をして……自分が少しでも可愛くなれたと勘違いしていた。ボクは何をしたって、普通の女の子にはなれない。
身体は醜い生傷だらけで、片目は抉り取られている。それに自分で歩く事も出来ないし、ご飯もロクに食べられない。これのどこが普通なんだ。
人々が、ボクを畏れ、哀れむのは当然ではないか。ボクは孤独な病室の中で、毎日そんな事ばかりを考えていた。
「優姫! ちょっと聞いて欲しい事があるんだ!」
すると、久し振りに兄さんが慌ただしく病室へと駆け込んで来た。この光景も久し振りだが、兄さんが病室へ来るとやはり雰囲気が明るくなる。来たら来たで、やはり嬉しい。
「……慌ただしいなぁ、一旦落ち着いて」
「これを見てくれ! この近くにこういう場所があるみたいで……」
そう言うと、兄さんはボクに1枚のチラシを渡してくる。その内容はこの近辺で開催されている学生サークルのチラシだった。
学生サークルと言ってもただのサークルではなく、身体や精神に何らかの障害・疾患を抱えている子供や学生達が互いに交流出来る様にと善意で作られたサークルらしい。週に何度かレクレーションや遊びをする程度の活動内容だが、同じ境遇の仲間を求めて参加人数はそれなりに多いと記載されている。
「へぇ……」
「たまにはこういう場所で、他の子と交流するのも良いかなって父さんと母さんとも話してたんだ! 普通の学校は難しくても、ここなら……」
今、ボクは学校には通っていない。
身体的に通学が難しいというのもあるが、虐めや差別等を懸念した両親の判断だった。
だが、同じ境遇の者同士ならそんな心配も少ないと思ったのだろう、兄さんがこんなにも喜んでいるのは、それが理由か。
「そうなんだ、わざわざ探してくれたの? ありがとう」
「これなら友達も出来るだろうし、きっと……」
ようやく妹に友達が出来る、そう思って兄さんは喜んでいるんだろう。けれど、正直に言うとボクはあまり気乗りしなかった。
周りがどんな人間かというより、そもそも人と会ったり話したりしたい、という意欲自体が失われていたからだ。
「……友達」
だけど、兄さんの笑顔を見るとそうは言い出せなかった。断って、兄さんに嫌われてしまったらどうしよう。見捨てられてしまったらどうしよう。そんな事ばかりを考えてしまう。
「……楽しそうだね」
ボクはそんな感情を押し殺して、作り笑いを兄さんに向けた。