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第28話 病室

 その日以降、ボクは病室の外へ出る事をやめた。

 ボクが周りに何を思われ、何を言われようが……それはボクが我慢すれば良いだけの事だ。

 けれど、ボクといると兄さんが嫌な思いをして、不幸になる。ボクに振りわされている哀れな兄として、世間から哀れに見られてしまう。

 だから、ボクの我儘でまた外に出たいだなんて言い出す事が出来なかった。


「優姫、久し振りに外に行かないか?」

 けれど、兄さんはそれからもボクを『デート』に誘ってくる。

 兄さんはきっとボクの為を思って誘ってくれているんだろうけど、ボクの気は乗らない。

「……いや、やめておくよ。あまりそういう気分じゃなくて」

「そうか……」

 ボクの答えはいつも同じだ。

 あの日、女子高生達に投げかけられた言葉を思い出す。ボクは醜く、汚く、可哀想な存在だ。

 メイクやネイルなんてして、勘違いしてしまっていたのだ。ボクは……可愛くなんてないんだ。

「兄さんも、たまには自分の為に時間を使いなよ。ボクの事は忘れてさ。ここ最近、ボクに付きっきりだったでしょ?」

「え? ああ……」

 ボクはこの病室で、引き篭もっているのがお似合いだ。父さんも母さんも兄さんも……ゆうちゃんもあんちゃんも、誰もボクの事なんて必要としていない。

「それじゃあ、また来るから」

「うん、またね」

 兄さんが病院を出て、しばらくするとボクの片目からは涙が溢れ出てきた。

 心のどこかでは理解していて、覚悟もしていたはずだったのに……涙は止まらなかった。


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