その日以降、ボクは病室の外へ出る事をやめた。
ボクが周りに何を思われ、何を言われようが……それはボクが我慢すれば良いだけの事だ。
けれど、ボクといると兄さんが嫌な思いをして、不幸になる。ボクに振りわされている哀れな兄として、世間から哀れに見られてしまう。
だから、ボクの我儘でまた外に出たいだなんて言い出す事が出来なかった。
「優姫、久し振りに外に行かないか?」
けれど、兄さんはそれからもボクを『デート』に誘ってくる。
兄さんはきっとボクの為を思って誘ってくれているんだろうけど、ボクの気は乗らない。
「……いや、やめておくよ。あまりそういう気分じゃなくて」
「そうか……」
ボクの答えはいつも同じだ。
あの日、女子高生達に投げかけられた言葉を思い出す。ボクは醜く、汚く、可哀想な存在だ。
メイクやネイルなんてして、勘違いしてしまっていたのだ。ボクは……可愛くなんてないんだ。
「兄さんも、たまには自分の為に時間を使いなよ。ボクの事は忘れてさ。ここ最近、ボクに付きっきりだったでしょ?」
「え? ああ……」
ボクはこの病室で、引き篭もっているのがお似合いだ。父さんも母さんも兄さんも……ゆうちゃんもあんちゃんも、誰もボクの事なんて必要としていない。
「それじゃあ、また来るから」
「うん、またね」
兄さんが病院を出て、しばらくするとボクの片目からは涙が溢れ出てきた。
心のどこかでは理解していて、覚悟もしていたはずだったのに……涙は止まらなかった。