それから、ボクは兄さんに支えられてながらもリハビリと努力を続けた。
いつかは自分の足で好きな人と手を繋いで歩きたいし、可愛い格好をしてデートだってしたい。
雑誌を見て、メイクやネイルも勉強した。これで、少しでも可愛く綺麗になれるなら……当初は完全に自分への自信を失っていたけれど、そんな事へ熱中していると少しだけ不安や絶望を忘れられた。
「よう、また化粧してのか」
兄さんがいつも通り、病室へ入って来る。
「今日の分のリハビリは終わったからね。ボクはやるべき事をやってから好きな事をする主義なんだ。兄さんはいつも後回しでしょ、宿題とか」
「はいはい……すみませんでした」
ボクがこんな軽口を叩けるのも兄さんの献身的なサポートのおかげだ。兄さんがいなければ、ボクはどうなっていただろうか。現実に絶望して廃人になっていたか、自殺していたか……間違えなく、こんな感情は抱けていなかっただろう。
「けどよ……」
「な、なに……」
兄さんがボクの顔を覗き込んでくる。
何だが、少し恥ずかしい。兄妹と言っても、一応は異性だ、男の子に顔を覗き込まれる事なんて、慣れていない。
「化粧って凄ぇな。こんなにも印象が変わるなんて……可愛い、な」
「かっ……かわいい……」
兄さんの突然の言葉に、ボクは思わず赤面してしまう。兄妹とはいえ、男の子に『可愛い』だなんて言われるのは初めてだ。
「ま、まぁ……元のパーツが良いから、ボク……あはは」
ボクは咄嗟に軽口を叩いて、恥ずかしさを誤魔化す。何を焦っているんだろう、ボクは。
兄さんはきっと、ボクを励ます為にそう言っているに決まっているのに、何を本気にしているんだろう。
「そ、そうだな……」
すると、兄さんも何故か赤面して固まってしまう。何で言った本人が照れているんだ、と思わず心の中で突っ込んでしまう。
お互い、黙り込んで気まずい雰囲気が漂う。
「……ねぇ、兄さん。1つお願いして良い?」
そして、ボクは気まずい雰囲気を打ち破る為に言葉を発する。ここ最近、ずっと思っていた事。
けれど、何だか恥ずかしくて言い出せなかった言葉を、兄さんへ向けて発する。
「デート、したい。思いっきりお洒落して、普通の女の子みたいなデートがしてみたいんだ」