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第25話 化粧

 それから、ボクは兄さんに支えられてながらもリハビリと努力を続けた。

 いつかは自分の足で好きな人と手を繋いで歩きたいし、可愛い格好をしてデートだってしたい。

 雑誌を見て、メイクやネイルも勉強した。これで、少しでも可愛く綺麗になれるなら……当初は完全に自分への自信を失っていたけれど、そんな事へ熱中していると少しだけ不安や絶望を忘れられた。


「よう、また化粧してのか」

 兄さんがいつも通り、病室へ入って来る。

「今日の分のリハビリは終わったからね。ボクはやるべき事をやってから好きな事をする主義なんだ。兄さんはいつも後回しでしょ、宿題とか」

「はいはい……すみませんでした」

 ボクがこんな軽口を叩けるのも兄さんの献身的なサポートのおかげだ。兄さんがいなければ、ボクはどうなっていただろうか。現実に絶望して廃人になっていたか、自殺していたか……間違えなく、こんな感情は抱けていなかっただろう。


「けどよ……」

「な、なに……」

 兄さんがボクの顔を覗き込んでくる。

 何だが、少し恥ずかしい。兄妹と言っても、一応は異性だ、男の子に顔を覗き込まれる事なんて、慣れていない。

「化粧って凄ぇな。こんなにも印象が変わるなんて……可愛い、な」

「かっ……かわいい……」

 兄さんの突然の言葉に、ボクは思わず赤面してしまう。兄妹とはいえ、男の子に『可愛い』だなんて言われるのは初めてだ。

「ま、まぁ……元のパーツが良いから、ボク……あはは」

 ボクは咄嗟に軽口を叩いて、恥ずかしさを誤魔化す。何を焦っているんだろう、ボクは。

 兄さんはきっと、ボクを励ます為にそう言っているに決まっているのに、何を本気にしているんだろう。

「そ、そうだな……」

 すると、兄さんも何故か赤面して固まってしまう。何で言った本人が照れているんだ、と思わず心の中で突っ込んでしまう。

 お互い、黙り込んで気まずい雰囲気が漂う。


「……ねぇ、兄さん。1つお願いして良い?」

 そして、ボクは気まずい雰囲気を打ち破る為に言葉を発する。ここ最近、ずっと思っていた事。

 けれど、何だか恥ずかしくて言い出せなかった言葉を、兄さんへ向けて発する。

「デート、したい。思いっきりお洒落して、普通の女の子みたいなデートがしてみたいんだ」


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