父さんが『お土産』を受け取ると、糸田議員はすぐに病室を後した。
受け取ったお金はまずボクの治療費に使われた。ボクは精神的にも肉体的にもかなり傷付いていたらしく、治療には多くのお金が使われた。
精神科医のカウンセリングを受けたり、身体の火傷や傷跡を少しだけれど綺麗にしたり……父さんや母さんは色々なケアをしてくれた。
残りのお金は実家の和菓子屋の再建に使われた。
ボクが誘拐されてから、父さんと母さんは店をほぼ廃業してまでボクを探し続けてくれていた。
元々人気がある店ではなかったけれど、両親が再び店を始められる事をボクは喜んだ。
そして、ボクがあの地獄を抜け出してから1年程が経った。
学校に行く事も無ければ友達もいないボクは、ただひたすらにリハビリに励んだ。来る日も来る日もただがむしゃらにリハビリを継続した。
勿論すぐに効果が現れる事は無かったけれど、少しずつ成果が出始めた事もあり、この頃は気持ちの面でも前向きになり始めていた。
「優姫!」
夕暮れの病室に汗だくになった兄さんが駆け込んで来る。兄さんも学校があって、サッカーの練習があって忙しい筈なのに……ほぼ毎日ボクの病室まで来て、今日あった出来事を沢山話してくれる。
「兄さん、今日も来たの? サッカーの練習は?」
「今日はもう終わり! それより散歩行こうぜ!」
練習で疲れているはずなのに、兄さんはボクを外へ連れ出そうとしてくれる。1人では外に出られないボクにとっては、兄さんとの散歩は日常の中でも数少ない楽しみだ。
「もう暗いから、あんまり遠くは駄目だよ」
そして、空が暗くなり始めた頃……ボクと兄さんは病院の中庭へ向かう。