【7月27日 再会:塚原 祐介】
俺はとりあえずここ最近、風呂に入っていなかったのですぐに風呂に入る事にした。さっきまでは入浴すらどうでもなるほどに自暴自棄になっていた。
だけど、今日優姫に再会できた喜びで今はかなり心が楽になった。西崎や峰岸に対しては薄情なのかもしれないが……今の俺は再会した優姫の事で頭がいっぱいになっていた。
10年ぶりに帰って来たんだ、話したい事もいっぱいある。遊びたい事もたくさんある。これからはいくらでも昔みたいに笑い合えるんだ……そんな事を考えながら俺はみんなの待つリビングへ脱衣所から戻る。
杏奈はキッチンで黙々と何か作業をしていて、和彦はソファーに腰かけて携帯電話をいじっていた。
「あ、さっぱりしたねゆうちゃん。ちゃんと洗えた?」
「……そのガキをあやすみたいな喋り方やめろって……もう高校生なんだぜ、俺」
「だってー、10年前のゆうちゃんはもっと甘えん坊だったし?」
「……昔の事だろ、なんか恥ずかしいな」
俺は少し照れながらも反論した。
……良かった。やっぱり優姫は変わってない。
誘拐されて、地獄を見て、絶望してもやっぱり優姫は優姫なんだ。変わらないでいてくれて本当に良かった。俺は堪らず涙が溢れてくる。
「……おいおい、なんだ泣いてんのか?」
「……うるせぇってっ……嬉しいんだから仕方ないだろ。こうやって4人がまた揃うなんて……」
俺の泣き顔を和彦がからかう。今はそのからかいさえも心地よい。これも昔のままだ。
もう……何もかも元通りになったんだな。俺は心から安堵した。
「じゃあ……みんな揃ったし、運ぶね」
杏奈がキッチンからこちらに声をかけてくる。
そして、キッチンから杏奈が大きな皿の上に何かを乗せてテーブルに向かってきた。そして、それを俺の席に静かに置く。
「これは……?」
テーブルに置かれていたのは大きなチョコレートケーキだった。見事な出来栄えの美味しそうなケーキだ。
「……2人が作ってくれたの、お兄ちゃんが元気になるようにって」
「祐介、お前が少しでも立ち直れた祝いだ。食ってくれ」
「うん! 昨日2人で頑張って作ったんだから!」
3人が俺の半泣きの顔に視線を注いでくる。
もう、そんな事をされたら涙は止まらなかった。更に涙は目から押し出されてくる。
「……ありがとう」
俺はそのケーキを手元のフォークを使って一口、口に入れてみる。
……甘い。でも、美味しい。手作りってこんなに暖かい味がするんだ。俺はもうケーキを口に運ぶ事をもう止められなかった。
甘いものはあまり好きではなかったが、このケーキは何か特別なような気がした。
「本当に……また会えて良かったっ……」
「……私もだよ」
「……ああ」
優姫と和彦が優しく、暖かく微笑む。
けど、一人だけ納得のいかないような表情を浮かべていたのが杏奈だった。