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第45話 希望

【7月26日 限界:倉田 和彦】


 家に帰ると透析を終えた少女がリビングにいた。

車椅子に座ったままボーっとリビングのテレビを眺めていた。


「ただいま……」

「あ、おかえり。どうだった? ゆうちゃんは」

 少女は俺に気が付くとすぐにそう聞いてくる。よっぽど祐介が気になっているようだ。

「ああ……あれは大分厄介そうだ。完全に心を塞ぎ切ってる」

「……そうなんだ。流石にあんちゃんが暴れすぎたかなぁ……でも、良い壊れっぷりみたいだね」

 そう言って少女は笑顔を浮かべる。

 普通の人間なら知り合いの女の子の顔が溶かされ、自分の唯一のライバルの身体が芋虫状態になってしまえば、心を病んでしまっても仕方がない。

 だが、少女にはそれが理解できない。なぜなら、10年前にそれ以上の絶望と地獄を味わっているから、そんな事で心が病んでしまう事が不思議で仕方ないのだろう。

「ああ……結局、西崎も2度とサッカーの出来ない身体になってしまったしな。多分……祐介自身も駄目だと心のどこかで分かっていたんだろうが……それでもショックは大きいだろう」

 だが、ある意味西崎は幸せなのかもしれない。目が覚めないのなら、自分が2度とサッカーが出来ないという現実を知らずに済む。自分が『芋虫』になっている事にすら気付かないのだから。

「ふーん……その人には悪いけど、そのお蔭であんちゃんの観察も色々できたわけだし、うん。仕方ないよ」

 完全に絶望の基準が壊れている少女にとっては、2人の人生が壊れた事など大した問題では無かった。

「それで……ゆうちゃんには……いつ会えるの?」

「それは……」

 少女は目をキラキラさせながら聞いてくる。

 ……いや、駄目だ。

 今の祐介は少女が求めている姿の祐介ではない。少女の求める祐介とは、10年前に最後に会った元気で明るく、優しい祐介だ。部屋に引きこもり、全てに絶望した祐介ではない。


「……今の祐介は……お前の求めているようなものじゃ」

「心配しないで。ボクはどんなゆうちゃんでも受け入れる自信……あるよ」

「だけど、今の祐介は……10年前の……お前の望んでいる姿の祐介とは……」

「いいの。それでも、ゆうちゃんには変わりないから。それに……私はもう絶望し飽きてるから。ゆうちゃんがどんな姿になってても今さら絶望なんてしないよ? だから、会いたい」

 そう言って少女はにっこりと笑った。

「明日、部活終わったら迎えに来てよ。ボクが……ゆうちゃんを外に引っ張り出してあげる」

「……ああ」


 明日、10年ぶりに4人が顔を合わせる事が決まった。

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