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第33話 杏奈の生贄

【7月21日 2人目の犠牲者:倉田 和彦】


『東神社の雑木林から、市内の中学生の峰岸 怜奈さんが気を失っている姿で発見されました。峰岸さんは顔面を中心に大きな損傷を受けており、恐らく硫酸のようなものを顔面に付着させられたとして……』


 俺と少女、2人は自宅のリビングで朝食をとりながらニュース番組を眺めていた。

 流れてきたニュースは聞いていると耳を塞ぎたくなるようなショッキングな内容であった。女子中学生が硫酸で顔面を焼かれたなど、朝からは聞きたくなかったニュースだ。


「……顔面を、硫酸って……」

 俺は一瞬だけ、その被害者の焼けただれた顔面を想像してしまい吐き気を覚える。それと同時に自身に対する激しい罪悪感と嫌悪感を感じてしまう。


「あっちゃーっ、可哀想。しかも女の子だってさ、これからどう生きてくんだろうねー」

 それと対照的に、俺の隣で車椅子に座ったままの少女は他人事のように一言だけそう言い、持っていたジャムトーストを口の中に放り込む。

「なぁ……これってもしかして、また」

「もしかしても何も、あんちゃん以外いないよ。だってこんな事、普通の神経の人間じゃ出来ない。あんちゃんだからこそ出来るんだよ……」

 少女は惚れ惚れとした様子で頬を赤く染めている。やはりこの少女にとって、杏奈という存在は特別なものだろう。今も、昔も。

「……でも、この峰岸って子も気の毒だねぇ……きっとゆうちゃんに変にちょっかい出して、あんちゃん怒らせちゃったんだろうなぁ、可哀想に。他の男だったらこんな目に合わずに済んだだろうにねぇ」

 少女はケロっとした表情で答えて見せる。その表情は杏奈が次は何をしてくれるのか、どれだけ残酷な事をしてくれるのかと期待しているような明るい笑顔であった。


「……本当に変わっちまったんだな、杏奈ちゃんは」

「……まぁ、それもこれもボクのせいなんだけどね」

 そう言うと少女は一瞬だけ笑顔を止め、沈んだ表情になる。

 しかし、その沈んだ表情も一瞬で崩れ、またもやあ人形のような薄気味の悪い笑顔を作り直す。恐らく無意識に、癖としてまた人形のような笑顔が作られているんだろう。彼女の心の中では、未だに誘拐されたという傷跡が癒えてはいない。

「うーん……大好きなお兄ちゃんの為なら、他人の顔くらい平気で溶かしちゃうくらいの愛情を持った妹……ボクは今の愛情に素直なあんちゃんが一番好きかな」

「……」

 屈託のない笑顔を浮かべる少女に対し、俺は口を開く事なく拳を握る。


「ああ、それと今回は身体の何処の『部位』を切り取ったんだろうね? 退屈だしクイズしよっか」


 そして、それを見た少女は俺に問い掛けるように悪戯っぽく笑いかけた。


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