【7月20日 制裁:塚原 杏奈】
私は雌豚の上に馬乗りになる。この憎たらしい顔を、今すぐ無残な姿にしてやりたい。
「ちょっと……なんなのよ、その瓶!」
雌豚が醜く叫ぶ。
「んー、知らない方がいいんじゃないかなぁ。後で嫌でも理解すると思うし」
私はあえて正体をバラさなかった。得体のしれないモノの方が恐怖も倍増すると思ったのだ。
「ちょっと! 聞いてんの!? 早く離しなさいよっ……」
「……そういえば、あんたの学校ってさー、理科どこまで進んでる?」
私の質問に相手の雌豚は目を丸くして驚く。質問の内容も分からないみたい。
「……はぁ? そんなの、あんたに何の関係が」
「H2SO4……って習った?」
私がその記号を口にした途端、相手の顔から徐々に血の気が引いていく。どうやらその羅列が意味する薬品名を知っているらしい。
「硫酸っ……まさかあんた、その瓶の中身って……」
「さっすが有名私立校、博識だねー。じゃあこれが人に触れたらどうなるかも……当然、分かるよね?」
そう言って私は瓶の蓋を開けた。理科準備室の硫酸の瓶から中身だけを少し抜き取ってきたものだ。学校にも色々と使えるものがあるんだと少し感心してしまう。
「ちょ、ちょっと! 待って! そんな事したら冗談じゃ済まない……っ」
「もちろん、冗談なんかじゃないよ。本気だよ?」
「や、やめっ」
「2度とお兄ちゃんに……ちょっかいなんて出させないから」
相手は何かを口にしかけたけど、私は構わず瓶の中身を顔の辺りにぶちまける。
「あああああああああああっ! 熱い! 痛いっ、助け……てっ……誰かぁ!」
辺りに響き渡る耳障りな悲鳴。でも残念、この辺は近隣住民も滅多に通らないような裏道なんだよね。だーれも助けてなんてくれない。
「この顔で……お兄ちゃんを誘惑したんだよね? この目で! お兄ちゃんをジロジロいやらしく見つめてたんだよね?」
雌豚は顔を両手で覆って泣き叫んでいる。
手足を今まで以上に痙攣させ、暴れている。
「ひィ……っ、お兄ちゃん、お兄ちゃんって……あんた、まさか……」
「その口で! お兄ちゃんとキスしたんでしょ?」
「や、っやめ……あ、あああ……」
私は無理やり口を開かせて残りの瓶の中身を、雌豚の口の中に瓶ごと突っ込んだ。雌豚の抵抗はより一層激しくなるけど、それを殴っておとなしくさせる。
「あっ……がっ……」
雌豚は惨めに声にならないような悲鳴を一瞬、出すとその場で気を失った。口からは涎がだらしなく流れていた。
良いザマだ。人のお兄ちゃんを誘惑して、そして唇まで強引に奪ったんだ、このくらいの罰は当然だよね。
「は……は、ざまぁみろ。このビッチ」
私は普段なら絶対に口にしないような汚い言葉を雌豚に浴びせつけ、更に鳩尾に蹴りを入れる。
「あんたなんかの汚い身体、持ち帰る必要あるのか分からないけど……まぁ、いいや。一応貰っておくね」
そう言って私はハサミを取り出し、作業に取り掛かり始めた。