【7月17日 朝:塚原 祐介】
昨日は峰岸を家まで送ってから帰ったので、帰宅はかなり遅い時間になってしまった。峰岸は送らないで良いと言っていたが、やはりあんな夜に女の子1人を歩かせるのは危ない。初日以外の6日間は家まで送り届けていた。
なので、ここ1週間は帰りが11時近くになってしまっている。杏奈には申し訳ないが、峰岸の安全を考えると仕方ない。
11時過ぎに家に帰ると、冷めた夕飯が置いてあるだけで杏奈は寝てしまっている。朝練の為に早起きをしても、この1週間は朝食と弁当がテーブルに置かれているだけだった。要するにこの1週間、杏奈とまともに顔を合わせていない。
「……こりゃ、かなり怒らせたな」
俺はベッドから起き上がってそう呟く。
だが、そんな心配も今日が最後だ。なぜなら、今日が夏休み前の最後の学校なのだから。
しかも、運が良い事に今日は県のサッカー連盟の会合が行われる為、うちの顧問もそちらに出席しなければならない。つまり部活も休みなのである。
そうなれば、病院にも早く顔を出す事が出来るし、夕方には家に帰れるのだ。
「帰ったら……とりあえず、杏奈に謝らなきゃな」
部屋の時計を見る、7時半。今日は朝練も休みなのでいつもより遅い朝だ。俺は大きな欠伸を1回すると、自分の部屋のドアを開け、階段を下りてリビングに向かった。
「おっはよーっ! お兄ちゃーん!」
「っ……」
リビングに入るとハイテンションな声が俺を出迎えてくる。杏奈だった。
「お前……なんで」
「えっ? 何でって、学校行くからだけど……もう7時半だし」
……そうか、いつもは朝練で5時半起きだったから忘れてたが、この時間には杏奈も学校に向かう準備をしてる時間って事か。すっかり忘れてた。
「……なぁ、杏奈」
「へ? なに?」
杏奈はけろっとした表情でこちらも振り返る。
「その……怒ってないのか? 俺が……1週間近く、夜遅くまで帰ってこなくて……」
俺は恐れながらも杏奈にそう聞いてみる。本当ならもっと怒っていてもおかしくないんだが……。
「……せーんぜん」
「……え?」
「ぜーんぜん! 怒ってなんかないよ! だって仕方ないじゃん、西崎先輩のお見舞い行ってたんでしょ? それで家に帰るのが遅くなるのは仕方ないじゃん! それに、お兄ちゃんが友達思いな事も昔っからよく知ってるしね!」
杏奈はとびきりの笑顔でそう言う。俺はそれを聞いて安堵する。ああ、なんて優しい妹なんだ。
怒られる事を恐れていた昨日までの俺が馬鹿みたいじゃないか。
「そっ、そうか……ありがと……な」
「だーかーら! 気にしない、気にしない! ほらっ、早く朝ごはん食べないと遅刻しちゃうよ!」
杏奈はそう行って俺の分のご飯を大盛りによそってくれた。
今日は、良い日になりそうだ。