【7月16日 病室:塚原 祐介】
それから1週間。俺は部活の後に毎日、西崎の見舞いに向かった。そして峰岸も毎日病室にいた。彼女も毎日のマネージャーの雑務を終えた後に病室に来ていたようだ。
この病院の面会は午後8時までなので長くは病室にいられないのだが、わずかな時間でもできる限り西崎に会ってやる事が大切だと俺たちは考えていた。
「まぁ、私達以外はここにはお見舞い来ませんからねー、毎日来ないとお花も替えられないですし」
峰岸が花瓶の水を取り替えながら言う。基本的に花を替えたり果物を剥いたりする事は峰岸がやってくれていた。杏奈もそうだが、最近の女子中学生は随分と家庭的なんだと思う。
「なんか悪いな、全部任せちゃって。俺も果物くらい剥いておこうか?」
「良いです、そんなの私がやっておきますから! それに……」
「ん?」
「塚原先輩が……怪我でもしたら……困りますし」
峰岸は小声でボソっとそう言った。
「……えっ」
俺は情けないが少しドキッとしてしまう。いや、そんな大きな瞳で上目づかいされたら無理もない。どんな男でもこうなる。
「馬鹿、そんな心配しなくても良いって。峰岸って、意外に世話焼きなんだな。うちの妹も相当だが」
「へへ、そうですかねー……なんていうか……塚原先輩って本物のお兄ちゃんみたいなんですよね、あたし、お兄ちゃんいないんですけど……女の子に良い意味で気が利くっていうか……扱い慣れてるというか」
「……え?」
「いや、別に変な意味じゃないです! 本当のお兄ちゃんみたいに親しみやすいって言いたかっただけですから! け、決して変な意味ではっ……」
峰岸が手をぶんぶん振って否定する。
いや、分かってる。分かってるけど、少しドキッとしたのも事実だ。
「分かってるよ! 別に変な勘違いしてねぇから……安心しろって」
俺は必死になって否定する峰岸の小さな頭を落ち着けるようにポンポンっと叩く。
「……ほら、こういうところ」
「……は?」
「普通なら女の子の頭をさりげなく撫でるなんて高等テクニック、出来ませんって。やっぱり、こういう事も妹さんにやってたんですか?」
「ば、馬鹿、高等テクニックなんて変な言い方すんなよっ……」
峰岸に指摘されて、自分のやった事が凄く恥ずかしく感じられてきた。ついつい杏奈と同じ感覚でやってしまったが、峰岸は妹でも何でもないんだ。
実はこの頭をポンポンと叩くのは杏奈が精神的な異常を起こした時、気持ちを落ち着かせるためにやっていたおまじないのようなものだ。これをやると少しだが杏奈も何故か落ち着きを少し取り戻す事が出来た。
今でも杏奈の精神がなかなか落ち着かない時にはこのおまじないを使っているので、自然と手が出てしまったのだ。
「す、すまん。妹によくやってたから、つい……」
「いやいや、いいですって! でも……ちょっと妹さん、羨ましいかな~、なんて」
「……え?」
「……何でもないです! こんな優しく頭をなでなでしてくれるお兄ちゃんがいて、妹さんはお幸せなんですねって、思っただけですよ?」
「おいおい、先輩をからかうもんじゃないぞ……」
出会ってから1週間経つが、峰岸ってこんな小悪魔みたいな子だったけ、と少し思った。