【7月9日 自宅:塚原 祐介】
それから俺は大急ぎで自宅に帰った。今頃、杏奈が夕飯の支度をしている頃だろう。昨日の事もあるから早めに帰ってやらないとまた機嫌が悪くなるかも知れない。
そして、俺はどうにか夕飯の時間までに自宅の前に辿りつく事ができた。
「……ただいま」
「あ! おかえりなさい、お兄ちゃん! 遅かったね!」
「……お、おう」
杏奈のいつも以上の笑顔とハイテンションに少し驚いた。なんだ、昨日の機嫌の悪さはどこに行ったんだと俺は驚く。
「もー、こんなに遅くまでどこ行ってたの? 休みの日は5時までには帰って来てって言ってるじゃん!」
「おいおい、小学生じゃねぇんだから勘弁してくれよ。見舞いに行ってたんだよ……西崎の」
俺は少し躊躇いながらも西崎の話題を出した。昨日みたいな事にならないか心配だったが、やはり嘘はつきたくない。
「……ふーん、そうなんだ」
やはり、一瞬で杏奈の機嫌は悪くなった。昨日程ではないにしろ、やはりこうなった。
「……これからも病院寄ってから帰る事も多くなると思うから、先に飯食ってて良いぞ」
「……嫌だ、お兄ちゃんと一緒にご飯食べたい」
杏奈はまるで子供のように愚図る。何というか……普段の杏奈とは違って今日は聞き分けのない子供みたいだ。
「……分かった、俺もなるべく早く帰るようにする」
「……うん」
その日の杏奈は終始こんな様子だった。どこか落ち着かないというか……子供のような言動や振る舞いが目立ったような気がした。
それと、両親の祭壇に手を合わせている時間や回数がなんとなく増えた気がする。気のせいかもしれないが。
そして、この日を境に杏奈の心は徐々に、音を立てて崩れていく。