【7月8日 帰り道:塚原 杏奈】
「へへ……お兄ちゃん、へへ」
自宅までの帰り道、私は嬉しさのあまり思わず声を漏らしていた。試合終了の合図が鳴り響く。掲示板には7対0の表示、南高の圧勝だった。
今日はお兄ちゃんもすっごく活躍してたし、最高の試合だったなぁ。そして私はクスリと笑ってスマートフォンに表示された画面を見つめる。
『発信履歴:7月7日 午後7時3分 西崎 徹』
ふふん、私がこれだけ我慢してこいつを呼び出したんだもん。頑張った甲斐があったと我ながら思う。お兄ちゃんのためとはいえ、本当に頑張った。
「我ながら……本当にお兄ちゃん思いの妹だなぁ……私」
やっぱりお兄ちゃんの本当の助けになるのは私しかいないんだよ。
「あんな大きなトラックに轢かれたら、しばらくはサッカーなんて出来ないよね。あ、そもそも足の親指がなかったら、もう無理か」
足の親指がないって、どんな感覚なんだろう?
でも、もうお兄ちゃんより早く走ったり、上手くボールを蹴る事は出来ないはず。
これでもう、お兄ちゃんの邪魔は出来なくなった訳だ。
「お兄ちゃん……それにお父さん、お母さん、神様……私、頑張ったでしょ? 褒めて欲しいな」
私は一旦歩く事をやめ、両手を合わせて天へ祈る。
妹ってね、お兄ちゃんの為ならどんな事だって出来るんだから。