【7月8日 報告:倉田 和彦】
俺は祐介の背中が遠くなしまうのをぼんやり眺めていた。
そして、その背中が完全に見えなくなったのを確認した後、俺は近くに知り合いがいないか確認し、携帯電話でとある人物に電話を掛けた。
「……もしもし」
『……ああ、どうしたの?』
電話越しに気怠そうな声が聞こえる。まだ幼い少女の声だ。
「透析は終わったのか」
『うん……ちょっと前にね。それで、いきなりどうしたの?』
「昨日、高校生が全身縛られてそのままトラックに轢かれたって事件あったろ? ニュースでやってたやつ」
『あったね』
電話の相手は興味無さそうに答える。
「あれ、祐介の知り合いだった。しかも今日、うちの高校と対戦するはずだった奴だ。しかも……身体の一部、右足の親指が切り取られていたらしい」
『ほほぅ……つまり?』
電話の相手は先程とは違い、急に声のトーンを上げる。ようやく俺の話に興味を持ち始めたみたいだ。
「……杏奈ちゃん……の仕業なんだよな?」
俺は恐る恐る聞く。とうとう始まってしまったのだ、杏奈の凶行が。もう、みんな後戻りする事は出来なくなった訳だ。もちろん、俺達2人も。
『……そうだね。やっとあんちゃんの愛の花が満開になったわけだ! もう、ここからは誰も止められないね』
電話の相手ははしゃぐようにして俺の報告を喜んでいる。彼女のこんな嬉しそうな声を聞いたのは一体、いつ振りだろうか。
『……大丈夫。きっと、うまくいくよ。どんな形であれ……愛は美しいんだから』
その一言だけを残し、電話は唐突に切られた。