【7月7日 待ち合わせ:西崎 徹】
「……ったく」
俺は呼び出された通りに西神社の前の雑木林に来ていた。明日が試合だってのに……。
だが、女の子からの呼び出しじゃあ仕方ねぇな。一昨日、女と別れたばっかだし丁度良い。
「お待たせしましたっ! ごめんなさい、西崎さん……待ちましたか?」
俺が退屈そうに欠伸をしていると、息を切らせながら女の子が走ってくる。杏奈だ。
「いや、俺もさっき来たばっかり」
西神社の階段を杏奈が下ってきた。大分急いで来たのか、息切れが激しい。
「で? 今日は一体……本当は何の用かな」
「その……明日の試合、西崎さんに頑張ってほしいなーって……」
息を整えた杏奈が顔を紅潮させながら言う。
……っへ。やっぱりそういう事か、俺を呼び出したのは。俺は心の中で笑った。やっぱり女なんて軽いもんだ。
「……つまり? 杏奈ちゃんは俺の事を応援してくれるんだ?」
「……えへへ。本当はお兄ちゃん応援しなきゃいけないけど……私はやっぱり西崎さんの方が……」
杏奈は照れ笑いを浮かべながらそう言った。
……やっぱり、俺にかかれば女なんて楽勝だ。塚原の妹ってのが唯一気に食わないが……まぁ、これだけの上玉が釣れたんだから良しとするか。
「それで……西崎さんが明日の試合に勝てるようにおまじないをプレゼントしたいんです」
「へぇ、どんなプレゼントかなぁ?」
ホラ来た。この娘……完全に俺に惚れてる。
後は少々強引でも家にさえ連れ込んでしまえば……俺は下心が悟られないように、なるべく慎重に事を進めようと思った。
「……目、閉じてください」
杏奈が恥じらいを帯びた様な声で言う。
言われるがままに俺は目を閉じる。
「まだ、開けないでくださいね……」
俺はまだかまだかと自分の唇に杏奈の柔らかな唇が触れるのを待っていた。
彼女の唇はどれだけ柔らかいのだろう、どんな味がするのだろう、俺の想像は一度加速し始めたらもう止まらなかった。
……しかし、すぐに俺の想像は途切れる事になった。俺の唇に触れた杏奈の唇とは思えないような冷たい、固い感触によって。
なんだこれは……鉄の味か?
俺は驚いて反射的に目を開いてしまう。
「……っ」
そこには笑顔で俺の唇にスタンガンを押し付けている杏奈の顔があった。
「……まだ、目……開けちゃ駄目ですって」
その瞬間、俺の意識は電撃とともに混濁した。