【7月3日 朝:塚原 杏奈】
ああ、またやってしまった。
もう、お兄ちゃんの前で変な事するのやめようって思ってたのに、またやってしまった。嫌われたかもしれない。
昔からそうなのだ。何故だかお兄ちゃんがどこかへ行ってしまうような気がすると、何とかして止めなきゃ! と思ってその場で怒鳴ってみたり、泣き喚いてみたりしてしまう。
自分でも異常だとは思うけど、それでもお兄ちゃんがここにいてくれるなら……って思うとそんな事はどうでも良くなる。
もう、大事な人が私の前から消えるのは嫌なんだ。だって、消えたら人はもう2度と戻ってこないんだもの。
10年前、私があの夏の日に、優姫ちゃんが消える時にも泣き叫んでたら……優姫ちゃんは消えずに済んだのかな。
「お父さん、お母さん……そして神様。私達でお兄ちゃんは……お兄ちゃんだけは守ろうね、絶対に」
祭壇に置かれた両親の遺影の前で祈りを捧げながら、私は一人呟いた。