この物語は俺たち兄妹と2人の幼馴染によるどうしようもなくて、救いようのない物語だ。他人から見たらそれはあまりにも狂気染みたもので、理解なんて到底出来ないだろう。
人が人を好きになる。たったそれだけの事なのに、どうして人はこんなに醜く、残忍な生き物になってしまうのだろう。
夏が終わる。
夏という季節は、俺にとっては人生を2回も狂わせたロクでもないものだ。
1度目の夏休みを思い出す。
10年前のあの夏……俺は少女と約束をした。
『ねぇ、ゆうちゃん。ボクとあんちゃんのどっちが好き?』
『なんだよ、いきなり』
『いいから! どっち?』
『だって……杏奈はまず妹だろ』
『あんちゃんだって女の子だよ。ボクとあんちゃん、どっちが好きなの?』
『……杏奈』
『……なんで?』
『あいつの方が俺に優しいし、女の子っぽい』
『あはは! そっかぁ……やっぱりあんちゃんか』
『……なんだよ、やっぱりって』
『そりゃ、あんちゃんには勝てないかー。あんちゃんはとっても良い子だもんね』
『……そんな事』
『けど、おかしいなぁ。ボク、毎日毎日ずっと神様にお祈りして、お供えまでしてるのに。ゆうちゃんがボクの事を好きになりますようにって』
『馬鹿、そんなの意味ある訳ないだろ』
『馬鹿じゃないよ! 絵本に書いてあったんだもん! 毎日ちゃんと神様にお祈りしてれば、きっと夢は叶うって!』
『はいはい、優姫は何でもすぐ信じるんだから』
『もう! ゆうちゃんは何でもすぐ疑う! じゃあ約束! ボクはこれからもずっとゆうちゃんの為に毎日サボらずお祈りする。その約束を大人になるまで守れたら……結婚してよね』
『……おう、ぐうたらな優姫にそれが出来たらな』
『約束だからね! 結婚したら、一緒にお城みたいなお家に住んで、美味しいご飯沢山食べて、好きなお洋服を着て、好きな…』
『あー! もう分かったって! もし約束守れたら、俺が優姫と結婚してやるよ!』
あの日、俺は少女とくだらない約束をした。
その約束をした後、少女は行方不明になった。夏の暑い日だった、彼女は突然姿を消した。まるで神隠しにあったかのように。
そして……2度目の夏を思い出す。今年の夏休み、俺は大切な全てを失った。
これは俺たちの人生をぶち壊した最低で、最悪で、狂った日々の記録だ。