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異世界ゴミ収集車
牧屋
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年10月26日
公開日
3,393文字
連載中
異世界で魔物の死骸収集を任された佐藤。彼が乗るゴミ収集車は、魔物の死骸や呪いの武具を集めるうち、次第に奇妙な変貌を遂げていく。頼りない清掃作業員の異世界転移譚は、思わぬ方向へと暴走を始める!

第1話

 気づくと、俺は異世界の城の大広間にいた。


「おお、成功じゃ!」


 豪華な服装の太ったおっさんが俺を見ている。


「ワシは廃棄物処理担当大臣のステーロじゃ。おぬしを異世界に呼び出したのだ」

「え? あ、はい。俺は佐藤です。ただのフリーターですが……」


 状況はよく掴めないが、どうやら異世界召喚されたらしい。寝てたから髪ぼさぼさだ。


「この世界は魔素を含んだゴミで溢れておる。おぬしとそのクルマで、王国中のゴミを取り除いてもらいたい!」

「はぁ……深刻な環境問題っすね」


 隣を見やれば、そこには以前、俺が清掃作業員のバイトで使っていた、色あせたゴミ収集車が置いてある。


「あのー……やってもいいですけど、終わったら家に帰してくれますか?」

「もちろんじゃ! 見事任務を果たしてくれたならば、多額の報奨金も約束しよう!」


 異世界のカネが日本で使えるとは思えないが、まぁもらえるものはもらっておこう。


「最初の収集地点は城下町の広場じゃ! 実は昨日、ドラゴンが襲ってきてのう。その死骸をどうにかしてくれい!」

「あっはい」


 俺はさっそく運転席へ乗り込み、エンジンをかける。くぐもった音が広間に響く。

 大臣が見送る中で大広間から通路へ突っ込み、そのまま城門を抜け、外へ出た――。





「うわっ、グロ!」


 徐行運転で辿り着いた先には、ドラゴンの巨大な死骸が広場一面に広がっていた。


「う……重……」


 重労働の末、なんとか死骸を投入口に詰め込む。

 車体は汚れ、予想以上に大変な作業だった。

 運転席へ戻り、コントロールパネルから圧縮ボタンを押す。

 投入口内のゴミが車内へ取り込まれ――油圧シリンダーが稼働。強烈なプレスをかける。

 後は大臣指定の処理場まで運び、一仕事完了。

 やれやれ。こんな後処理作業が、これから続くのかよ……。


「頑張ろうな、俺達……」


 車を雑巾で拭いてやりながら、自らも鼓舞するように、そう声をかけるのだった――。





 それからは王国各地を東奔西走し、魔物の死骸という死骸を集めて回った。

 持て余されているというだけあり、どれも一筋縄ではいかない。

 ゴーレムとか硬すぎてプレスするのに半日かかったし、スケルトンの骨は途中で復活するから、車内がガタガタ揺らされてうるさいのなんの。スライム系に至ってはホースを使って流し込まないとどうにもならず、ゴミの収集・処理方法にはずっと悩まされた。


「活躍、毎日耳にしておるぞ! おかげで我が王国はどんどん綺麗になっておる!」

「はぁ……」

「それにしても……おぬしのクルマ、前よりどこか、様子が違って見えるのだが?」

「あ、やっぱりそう感じますか?」


 二人して、大広間内に停めてあるゴミ収集車を見つめる。

 ボディにはいつしか、角や鱗めいた模様が増え始めていた。最初は落ちにくい汚れかと思っていたのだが……。


「まあ異世界の代物、そういう事もあろう! ところで今後、おぬしには通常業務に加え、呪われた武具! の収集も頼みたいのじゃ」

「のろわれたぶぐ……ですか?」

「多くの人間の血を吸った剣! 魔物どもが生み出した暗黒魔導書! その他非常に扱いに困る諸々の処分じゃ。どれも手に取るとヤバイが、クルマなら触れずに回収できよう!」

「いや、それでも積み込むには、俺が触らないといけないんすけど……」


 厄ネタなのは分かっていたが断りきれず、渋々いわくつきの品々も集める事に。

 やる事自体は変わらないものの、基本的には暴れない死骸と違い、何が起こるか分からないため普段より遥かに慎重な作業を要した。


「――おお、キミが噂の清掃員、佐藤か! 僕は勇者のイーラ・ナイツだ! よろしく!」


 魔王討伐の旅を進める勇者一行とも知り合う。彼らも呪われたアイテムの収集を行っていた。


「この峠にある呪魔槍・イカレランスの回収は僕らに任せてくれ! あれは近寄る者すべてに、魔力の槍を降らせてくるからな……」

「げっ、そんなのがあるんすか?」


 勇者たちの力もありがたく借り、どうにか依頼された分を集めきる。


「それにしても……なんか、随分様相が変わったな……」


 一息ついた頃、改めて車をためつすがめつすれば、その姿は明らかに異常だった。

 模様に思われたそれらは車体全体を覆い、触れれば硬質な感触がある。

 実際に凄まじい硬度を誇り、途中で出くわす魔物の攻撃にもびくともしないのだ。

 あちこちからは触手じみたアームが伸びてうねうねし、目的のゴミを遠距離から掴み、投入口へ放り込む機能が付加されていた。

 タイヤはギザギザしたチェンソー状に変わり果て、どんな悪路も削り取って平地にしながら走破してくれる。


「……もしかして、変なもん詰めすぎたせいか……?」





「佐藤! 一つ頼みがあるんだが、聞いてもらえないかっ?」


 帰り際、勇者に呼び止められる。なんすか、と俺は車窓から顔を出した。


「志半ばにて果てた、仲間の処分をお願いしたい! 場所はあちらの街道だ!」

「しょ、処分って……あんた達の仲間だったんでしょ……?」

「厳密には、もう仲間ではないんだ! 実は彼、追放者でね。パーティから追い出そうとした途端、猛然と暴れ出したものだから、すごいバトルになってしまって」

「……殺したんすか?」

「やりたくはなかった! 悲しい戦いだった! でも仕方なかったんだ! 事故だったんだよ! 彼もきっと、僕らなどには葬られたくはないだろう! ならいっそ、他人の方が」


 もちろん報酬は弾もう、と差し出されたのは、普段大臣から受け取る額の数倍であった。

 ……恐らく、口止め料も含まれているのだろう。

 ――俺も召喚される前は極貧生活だった。今の生活は良い物も食えてるし、良い家ももらえてる。少々怪しい仕事だとしても、つい首を縦に振ってしまう。

 何より――仲間すら手にかける相手に逆らえば、何をされるか分かったものではない。

 ひとまず現場へ向かう。


「……あった。うわグロ」


 爆心地には、傷だらけの遺体が転がっていた。

 ……なんで仲間同士で殺し合ってるんだよ。どうかしている。

 目を覆いたくなる有様だが、ゴミと無理に思い込み、投入口へ放り込む。

 そしてコントロールパネルから、圧縮開始――した瞬間、後部から悲鳴が響く。


「おい、やめてくれ! 止めてくれ! 我はまだ生きておる!」


 えっ? マジで?

 しまった、本当に死んでたのか確認してなかった!

 慌ててボタンを叩いて止めようとするが、なぜか操作がきかない。

 その間にも動作は続き――やがて静まり返る。


「やっちまった……労災降りるのかな、これ」


 だが状況は、とうにそんな段階ではなかった。

 事故以降、ゴミ収集車は度々俺の制御を離れては、勝手な暴走を繰り返したのである。

 ある日、車が突然加速し、目的地と違う方向へ疾走。操作パネルが妙な光を放ち、山奥の魔物の死骸を探し当てた。

 別の日には、遠くの呪宝を勝手に吸い寄せ、伸びたアームで分解。

 こうした異変が重なるにつれ、俺は次第に、この車が単なる道具ではなくなりつつある事を実感し始めていた――。





 事態を重く見た大臣は、ついに俺達を魔物と認定。討伐依頼を出した。


「佐藤! こんな格好で相まみえる事になるとは残念だッ!」


 俺の前に立つ勇者達。もはや絶体絶命である。

 しかも反対方向の空からは、闇色の光とともに、無数の軍勢が降り立ってきた。

 先頭にいるのは、雄々しい角を生やし、マントを羽織った大柄な魔族。


「同胞の屍をゴミのように扱いおって! 許さんぞッ!」


 なんと魔王自らが軍を発し、直々に現れたのだ。

 俺達は期せずして、勇者パーティと魔王の部隊の両軍に挟まれる形となった――。

 するとどうだろう。突如として収集車の投入口が開き、ひとりでにエンジンが稼働し――途方もなく強力な吸引を始めたのである。

 慌てて車体にしがみつき、耐える俺。

 されど虚を突かれた勇者と魔王達は、その身が浮き上がり――。

 みるみる、投入口へ吸い寄せられていくではないか!

 俺は必死で運転席へ乗り込み、コントロールパネルを潰す勢いで、叩きまくった!


「そいつらは……ゴミじゃなあぁぁぁいッ!」


 渾身の一言が伝わったのか――ぴたりと吸引が止まる。

 俺はなんとか車から這い出ると、倒れている勇者と魔王に向けて、叫んだ。


「お前ら、もう戦うの禁止! くっせぇし重いんだよ! ゴミ運ぶの! いいな!?」

「は、はひ……」


 ――こうして勇者と魔王の争いは終わり、俺の業務も格段に楽になった。

 俺とゴミ収集車がこの世界にいる間は、少なくとも戦いは起こらないだろう。

 だって皆、ゴミにはなりたくないだろうから――。

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