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魔王城、移動します!
牧屋
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年10月26日
公開日
3,400文字
連載中
忠実なゴーレム・ゴリアテは、窮地の魔王のため、城ごと人間の王都へ。
和平交渉決裂で、次は神の元へ! しかも人間の城も一緒に持って! さらに神殿まで載せちゃって! 
誰も止められない、城づみファンタジー!

第1話

 俺の名はゴリアテ。力自慢のゴーレム族である。

 そしてここは魔王城の魔王の間。目の前では魔王様が指を噛みながら、うろうろと行きつ戻りつしている所だ。


「なんという事だ……あの勇者によって、魔王軍の主力の大半が撃破されてしまった……」

「し、四天王も壊滅したとの知らせです! しかも勇者達は魔王城の、すぐ側まで迫っているとの事!」

「残された権勢の象徴は、もはやこの魔王城くらいしかないというわけだ……」


 魔王は舌打ちし、ぐっと拳を握って天を仰ぐ。


「――おのれ、もはや余が戦うしかないではないか……!」


 そう。まさに、最終決戦はもう間近という局面だった。


「ま、魔王様。お、俺も配下として、最後までお仕えする所存であります……!」

「そなたは力こそ余を遥かに凌ぐが、こと戦いにおいてはからっきしのくせに、何を言う! いいからさっさと避難しておれ、この場は死線となる!」

「できません! 魔王様を置いてなど……!」

「……正直言って勝ち目は薄い。延命策に過ぎないが、せめて勇者に指令を出す人間側の王に、一時停戦の交渉ができれば……」


 されど、人間の国王がいる王都は、遥か海の彼方――。

 それなら、俺のパワーの見せ所だ。


「人間の王の所まで行ければよいのですね! 俺に任せて下さい!」


 外へ出た俺は、城の土台部分へ腕を突っ込み、腰を入れて――一気に持ち上げた!


「ぬおおおおっ!? ご、ゴリアテ、そなた一体何を……!」


 ものすごい地響きとともに城が傾く。窓が一斉に割れ、蝙蝠型の魔物たちが驚き戸惑って逃げ出し始める。魔王様の困惑の叫びも聞こえた。

 俺はそのまま、壁面を支えつつ――真下まで身体を滑り込ませ、重心を安定させながら、城そのものを持ち上げるのに成功した。


「魔王城は権勢の象徴! 交渉に備えて威迫するためにも、必要でございましょう!」

「そ、それは一理あるが……ここからどうやって王の所まで……!」


 俺は両ひざを曲げ、力を籠めるや――城を抱えたまま、駆け出した。





 人間の王国めがけて全力疾走し、やがて城壁に囲まれた王都が見えてきた。


「といやっ!」


 俺は跳躍し、王都の隣へ横づけするように、魔王城ごと降下する。

 とんでもない地鳴りが周辺一帯を襲う。王都そのものの地盤が一瞬浮き上がって、波が揺れるようにさざめいた。

 人間どもの悲鳴が響き渡る中、魔王城ほどではないにせよ壮麗な王城の扉が開き、こけつまろびつ人間の王が現れ、城壁まで駆け上がってきた。


「い、一体何事じゃ!?」


 直後、魔王城二階からも、魔王様がよろよろと歩み出る。


「うっ……おえっぷ……!」

「お、お前はまさか、魔王!? よもや、魔王城ごと攻め込んで来るとは思わなんだぞ!」

「か、勘違いするな……ううっ。余は別に、貴様らと戦いに来たわけではない」


 顔色が悪いものの、すっくり背筋を伸ばし、胸壁越しに対峙する魔王様。なんと美しい。


「我らの戦いは古来より長く続き、互いの民は疲弊しきっている。ここは一度、休戦せぬか?」

「嫌じゃ! お前なんぞ放っておけば勇者が倒してくれる!」

「ふん……その勇者はこの場におるまい。余が貴様の前にいる事さえ知らんはずだ」

「むむむ」

「別に構わんのだぞ? この瞬間、種族の頂点同士で決着をつけても。この震源で足がぶるっぶるの城の近衛兵共で、余にどこまで抗えるかは知らんがな……くく、く……うっぷ」


 躊躇う素振りを見せる人間の王。魔王様の威容の前に、震えあがっているに違いない。


「……貴様の提案を鑑みたとしても、やはり受け入れるわけにはいかぬ!」

「ほう、なぜだ? 自ら早死にを選ぶ事はあるまい」

「神じゃ! 勇者を送り込み魔王を討てという命令は、天界にいる神が出しておる! もし命令に背き、勝手に停戦してしまえば、どのみち儂は罰を下される……死にたくない!」


 ……なんと。この戦いの裏には、まさか神の存在があったとは。俺も初耳だった。


「ならば今ここで、余の手にかかるか!? 選択権など、もはや貴様にはないのだ!」

「くっ……こうなれば王都の民も全て動員し、せめて一太刀浴びせて散ってくれるわ!」


 ――いけない。足元がおぼつかない魔王様では、例え雑魚の群れが相手とはいえ、万が一にも不覚を取る可能性がある。

 それなら、俺のパワーの見せ所だ。


「ま、待てゴリアテ、そなた、何をする気だ!?」


 俺はすでに、人間の王城の真下まで地面を掘り進み、踏ん張りながら持ち上げていた。

 あわてふためく人間の王だが、構ってはいられない。

 そのまま王城を放り上げ、魔王城の上へ投げ重ねた。


「お、おいゴリアテそなた、まさかまたあれをやるのか? ちょっと考え直さないか!? 魔王城は耐震設計にはそこまで力を入れてないんだぞ!」

「魔王城と人間の城は権勢の象徴! 交渉に備えて威迫するためにも、必要でございましょう!」

「そ、それは一理あるが……ここからどうやって神の所まで……!」


 俺は両ひざを曲げ、力を籠めるや――二つの城を抱えたまま、垂直にジャンプした。





 音の壁を突き破り、次元を越えて天界へ。

 目前には神殿が輝いていた。神の像が立ち並び、幻想的な光球がふわふわと漂う。


「といやっ!」


 俺は神殿の横へ、二つ重ねの城ごと降下する。

 衝撃で周辺の景色にヒビが入り、石段で暇そうにゴロ寝していた天使達が吹っ飛ばされた。

 最後の審判のラッパが鳴り響く中、次の瞬間――乗り物酔いでふらつく魔王様と人間の国王の前へ、女が忽然と出現する。


「一体これは、何事ですか……!?」

「おえぇっ、げげぇっ……!」

「おぼろろろろろ」

「答えなさい! あなた方……魔王と人間の王ですね? まさか私に歯向かうつもりでは」

「き、貴様が神か……わけあって、余と人間の王は一時休戦で合意したのだ」


 先ほどより輪をかけて具合の悪そうな魔王様だが、それでも言葉を紡ぐ。なんと力強い。


「しかし、あなた様のお許しがなければ、儂もうんとは言えず……こうして拉致されて」

「人間の王よ、あなたには不法侵入罪&器物損壊罪で後で罰を与えます。そして魔王……世迷言も大概になさい! 私がそんな要求に従うとでも?」

「くっ……神が相手となると流石の余も二の足を踏むが、もはや止まる事はできんのだ。例え貴様を倒してでも、人魔同盟はなしえさせてもらうぞ!」


 そこで俺は、僭越ながら諫言を挟む。


「魔王様! 我らはあくまで話し合いに来たはず! 武力へ訴えては、それ見た事か、と世間のそしりを受けてしまいましょう!」

「むむ! ゴリアテ、そなたの申す通りだ……そもそも勇者にも勝てん余が、神を打倒などできるはずもないしな」

「先ほどから何をごちゃごちゃと! そちらが来ないのなら、私から仕掛けますからね!」

「待て、神よ! 話し合おうぞ! 古来より続く人と魔の戦争に先んじてあったのは、対話という文化だ! 戦いというものは、常に理性を保ってこそ、未来を拓くのだ!」

「問答無用! てやてやっ」

「ぐわああああ」


 いけない、魔王様がやられてしまう!


「どうかおやめください、神よ!」


 焦った俺は、間へ割って入り――つい、神を突き飛ばしてしまう。

 その体躯は猛烈に吹っ飛び、そして自分の像に、後頭部を嫌な角度でぶつけ。

 ……白目をむいて崩れ落ちる。

 しばしの沈黙の後、ぴくりともしない神へ人間の国王が近づき、脈を測って。


「――し、死んでいるのじゃ……」


 ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?


「なんと痛ましい事故だ……」





「ともあれ、神が死んだ以上……ひとまず互いに、矛を収めるとしよう」

「う、うむ……?」


 神の前で、握手を交わす両名。なんて感動的な光景なのだ……!


「この顛末を、勇者の奴めに伝えねばならんな」

「儂が言った方が、すんなり話が通るはずじゃ。同行しよう」

「勇者の所まで行ければよいのですね! 俺に任せて下さい!」


 俺は神殿を持ち上げ、二つ重ねの城の上へ狙い定めて投げ、もう一段積み上げた。


「……ちょっと待て! 待つのだゴリアテ!」

「魔王城と人間の城と神の神殿は権勢の象徴! 交渉に備えて威迫するためにも、必要でございましょう!」

「やめろおぉぉぉぉッ!」


 俺は両ひざを曲げ、力を籠めるや――地上へ向けて、飛び降りた。





 だが、今回の俺は、神をこの手にかけてしまった事実に、ひどく動揺していた。

 さらに、支えている建造物達のあまりの重量に、ほんのわずかだけ、着地点を見誤り。

 勇者の頭上へ、城を落としてしまったのである。


「なんと痛ましい事故だ……」


 こうして人魔同盟は成り、俺達はしばらくの安寧を、享受するのだった――。

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