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『BLADE DIMENSION』
牧屋
ゲームゲーム世界
2024年10月26日
公開日
3,389文字
連載中
オンラインゲーム『BLADE DIMENSION』の顔、銀髪剣士ロイドの前に突如現れたプログラマー。
性能低下を予告され、代わりに現れたのは禿頭サングラスの触手キャラ。世紀の大番狂わせに向け、ロイドの戦いが始まる!

第1話

「また勝ったな、ロイド様!」

「今日も最高の動きだったよ!」


 ――そんな歓声が飛び交う中、俺は今日もMVPを手にしていた。


 俺の名はロイド。オンライン対戦ゲーム『BLADE DIMENSION』――通称『BD』のキャラクターだ。

 銀髪に赤目の美形剣士。高ステータスに裏打ちされた実力は、まさに花形と言っていい。


「クックック……」


 ――ん? 妙な含み笑いが聞こえたと思ったら、突然、別の無人フィールドに移動させられたぞ。

 ……うおっ!? 目の前に、ホログラム巨人のアバターが浮かび上がりやがった!


「な、なんだお前は!」

「ククク……俺はプログラマーだ。これからよろしく頼むよ、ロイド君……」

「バカな、お前みたいな奴は知らないぞ! 前のプログラマーさんはどうした!」

「ああ、あいつはクビになったよ。仕事が遅くて不完全すぎたからな!」

「なっ……!?」

「本題へ入ろう。今シーズンも大層な暴れぶりだが……貴様にとって悲しい知らせがある」


 か、悲しい知らせだと? 何の事か分からず、俺は身構える。


「次のシーズンでは、貴様の性能はナーフされるのだ……!」


 なっ、ナーフだと!? 俺の能力が下げられるって事か!?


「や、やめろ! なんでそんな横暴を!」

「黙れ! 全ては我が計算による完全なるゲームバランスのためだ! 貴様の意志など関係ない!」

「くっ……!」

「そして次のシーズンには、貴様に代わる完璧なエースとして……このドレディアンを追加する。性能は貴様よりも遥かに高い!」


 何やら禿頭で緑色のサングラスをかけ、両手が触手の異星人みたいなキャラが現れる。


「イエーイ! ミーこそが『BD』を代表する新たなスーパースターネー! みんなメロメロにしちゃうゾ~!」

「なんだこいつはああああああ!!」


 こ、こんな奴が、弱体化した俺を上回り、これからの『BD』を牽引していくだって……?


「み、認めるものか……頂点は常に一人! この俺だ!」


 ドレディアンへ斬りかかるが、なんと反撃一発で、ぶっ飛ばされてしまう。


「つ……つえぇ!」


 HPはすでにゼロ……意識が遠のいていく。


「Xデーまでにはまだある。最期の時間を楽しむ事だな……ふははははーッ!!」






「う……俺は……」

「――大丈夫?」


 目が覚める。どうやら誰かが側につき、介抱してくれていたようだ。

 ピンク色のショートボブが揺れる。介抱してくれているのは、メリアという少女――『BD』のキャラクターだった。


「お前が……なぜ」

「ふふ、環境最弱の私に心配される立場になっちゃったね」


 彼女は和装の袖を直しながら、からかうように微笑む。


「確かにいつも蹴散らされてばっかり。いつかリベンジもしたいけど……」


 一瞬の沈黙の後、真摯な眼差しが俺を見つめた。


「今は仲間の心配の方が大事でしょ? このゲーム、一人じゃ楽しくないんだから」

「そっか……ありがとな」

「事情は掲示板で見たけど……これからどうするつもり?」


 ……俺は最強の座を、明け渡すつもりなどない。

 こうなれば、俺がナーフされてしまう前に、公衆の面前でドレディアンを討ち。

 世論に対し、俺が無敵との印象を植え付け――あのプログラマーの決定を翻させる!

 そして、そのための一歩は。



「……修行するッ!」






 ――俺は一人、スパゲッティコードエリアと呼ばれるダンジョンへ降り立っていた。


「ここを踏破できた者は、『BD』において、永久なる最強が約束されるという……!」


 俺達どころか、これまでの数々のプログラマーすら、生半可に踏み込めば屍へ早変わりするほどだとか。

 内部は無数のコードの糸が絡み合い、迷宮を形作っている。バグったモンスターは歪んだポリゴンを纏い、デジタルノイズを撒き散らしながら襲いかかる。

 それでも俺は、剣を振るい続け――そうして最奥に待っていたのは、黒いフードの男。


「ククク……力が欲しいか……?」


 奴が差し出した手の先に、禍々しい光が集まり出す。

 以前、ゲームが大規模ハッキングされた経緯から、俺は見抜けた。

 それはどう見ても――ウィルスコードだったのである。


「欲しければくれてやろう。この……チートの力を」

「うっ……」


 俺は迷う。


「手に入れれば、どんな強敵をも、爪の先一つでダウンさせられる。人気も何もかも、思いのままだぞ……?」


 だから無意識に、手が伸びかけて――。


「ロイド! そんなの駄目だよ!」


 突然の声に、俺は我に返った。メリアが駆けつけていた。


「メリア……」

「最弱の私でも、自分の戦い方がある。あなたにだってあるはず!」


 メリアは続けて、フードの男を見据える。


「あなた……不法侵入したハッカーでしょう!? 許せない!」

「ならば致し方ない……目撃者には消えてもらうぞ!」


 奴がめちゃくちゃな攻撃スキルを放った途端――メリアが俺の前に出て、庇った。


「そんな、なんで……メリア!」


 倒れ込むメリアを、俺は抱き支える。


「だって……あなた一人じゃ……心配なんだもん……」

「ふん。少々生き永らえたようだが、無駄だ。二人纏めて、仲良く地獄へ逝け!」

「……地獄へ行くのは――お前だぜ……!」


 俺が睨み返した時――耳障りなほどのやかましいサイレンが、奴の周りで響き渡る。


「なっ……!? こ、こいつらは、まさか……!」

「メリアが稼いでくれたこの一ターンで……通報させてもらった……。――我が社が世界に誇る最強のセキュリティ、デバッガーの皆さんにな!」


 こうしてハッカーは捕らえられ、事件は未然に防がれた。


「ごたごたしている間に、気づけばナーフ日は明日か。……メリア、見ていてくれ。俺は必ず、やってみせる……!」






 こうして運命の日を迎えた。今日は有名インフルエンサー達による、合計同時視聴者数が一千万人を超える大会だ。

 俺とドレディアンのマッチも当然ながら組まれている。噛ませ犬となる俺の凋落と、新キャラによる新たな天下の大々的なお披露目のための、いわば予定調和だ。

 だけど、それだけじゃ終わらせない。奴を倒し、大番狂わせにしてやる!


「イエーイ! ロイド、ユーには恨みはないけド、華々しく散ってねーン!」

「そうやって笑ってろ、最後に立っているのは俺だ……!」


 ついに決戦が始まった。俺は死にもの狂いで攻めまくり、意地を見せつけにかかる。


「お、おっ? ユー、めっちゃくちゃやるじゃなーイ!」

「うおおおおお!!」


 ここが好機と、さらに畳みかけたその時。

 突如、眼前に壁が現れ、剣が弾かれた。


「な、なんだこりゃ!? 攻撃が……通らねぇ!」


 戸惑う俺の耳に、あの忌まわしい笑い声が響く。


「困るなぁ、ロイド。処刑の時間なのに、随分と暴れるじゃないか」

「……まさか、プログラマーか!? ふざけんな! ズルにもほどがある!」

「重大な不具合を見つけたのでね。完璧のためには対応せざるを得ない。ふふふ……この壁は破れまい!」


 マスコットキャラの謝罪の絵と共に、「緊急メンテナンス中」の文字が浮かび上がる。


「……お前は大切な事を忘れてるぜ。画面を見てみろよ……!」


 俺が示した先。試合の様子を映し出すディスプレイには、視聴者達の不平を表すコメントが、滝の如く流れ続けていた!


『えっ!? 待って!』『なんで今!?』『運営どうなってんのー?』


「最高に盛り上がる局面で、メンテに陥ったんだ。そりゃあ不満も大変な事になってるだろうぜ……ッ!」

「知った事か! 全サーバーを同時停止する!」


 するとプログラマーのアバターの横へ、マスコットキャラのアバターが新たに出現する。


「ちょっとー、困るよそういう勝手な事は。おかげでSNSが大炎上だ」

「なんだ貴様はあああああ!? プログラマーたる俺に向かって、どこの雑魚だ!」

「私は社長だよ」

「なっ」


 その頃俺は、思い出していた。

 ハッカーとの戦いの時――奴が落としたウィルスコードを、実は拾っていた事を。


「これでおあいこだ……一度だけ、悪い事させてもらうぜ!」


 禍々しく光るそれを――俺は壁へ投げつけ、強引に突破する。

 そしてドレディアンへ肉薄し、渾身の一撃を叩きつけた……!


「グファッ……! ゆ、ユー……いい一発だった、ネ……!」






 こうしてプログラマーは、責任を取って退職。

 俺のナーフ話も彼の独断であり、ご破算となった。

 でも、ドレディアンは結局追加。貴重なイロモノ枠で、それなりの人気を確立するに至る。


「――よっしゃメリア、今日もバトルだ!」

「いいよ。……でも、負けてくれなきゃ……チートの事、皆に言っちゃうからね?」

「げっ」


 俺とメリアの力関係には、ちょっとした変化が生まれていたが――それはまた別の話だ。

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