さあどうしよう、とアンネリアは思った。
物事が露見する瞬間は案外簡単に、一気に進むものなのかもしれない。
それにしても、揃い踏みしすぎだ、と。
「よし」
アンネリアはすうっ、と息を吸い込む。
「いずれにせよ、このイスパーシャ王国における私の『婚約者』は既にありません。近いうちに私はここから去ります。
私がここにやってきたのは、この王国の王太子の資質を見て、帝国が介入するか否かを確かめるためでしたが、それもまた次までは時間がかかるでしょう。少なくとも次に宛てられる王子に、私は歳が会わない」
そう全体に向かって言うと、次はハリエットとアイアンに向かい。
「ハリエット嬢。
そして侍従アイアン・ダッスル。
協力者キーネル・フリクソン。
貴女方の処分は少々判断が難しいので、ひとまず私と共に帝都へ行くことを命じます」
ハリエットとアイアンは黙ってうなづいた。キーネルは少しばかり面倒だな、という顔をした。
「判断がどう出るにしても、この国にはハリエット嬢、特に貴女は居づらいだろうし」
「そうですね、未練はさらさらありません」
「彼のことは良いのか?」
ちら、とハリエットはアスワドの方を見る。
少しの間、二人の視線は交わる。
だがやがて、ハリエットは目を伏せた。
「七年は大きいです。生きていると判っただけでいい」
「了解した。そしてリタリット王女はこちらに戻る気があるのか?」
「無い」
リタリットは素っ気なく言った。
「今更宮廷の暮らしなんて戻れないし。それに、もう、兄様は居ない」
「母上のことはいいのか?」
「母様の声は、耳に響きすぎた。昔から。
あの頃から聞きたくなかったし、今はもう、ただあれが消えて行くのをアタシは待ってる。
まずそのために動いて、忘れて、生きてきた。これからもそうしたい」
「国王殿下、貴女の王女はそう言ってますが?」
「生きていると判ったのに、また行ってしまうのか……?」
よろよろと国王は娘に向かって手を伸ばした。
「もし、もっと事件が起こっても誰かが助けてくれる様な場所にアタシ達が、あの頃住んでいたなら」
最初から間違った手を打っていたのだ、とリタリットは父親に示唆した。
国王はがくっと肩を落とした。
「だから、今度は間違わないでやって欲しい。アタシでない子には」
そう言うと、再びフードのついたアスワドのマントをすっぽりとかぶった。
「俺等も帝都へ行かなくてはならないのか?」
「いいや、其方等は辺境領の査証を持っていると言ったろう?
戻るがいい。あそこがお前等の住む地だ。
別にしたかったら、国外調査要員にしてもいいが」
「しばらくはごめんだね」
アスワドはそう言って、にやりと笑った。
「以上! この件についての語りは終わる!」
皇帝の代理人はこの国での任務を終える宣言をした。
*
それから数日して、王都を何頭かの馬と、一台の幌馬車が出発した。
善は急げ、とアンネリアは今回の関係者誰にとっても居心地の良くない国をさっさと引き上げることにしたのだった。
途中、帝都行きと南西辺境領行きで別れる道がある。
ふとハリエットは馬を止め、飛び降りる。
そしてかつての相棒の方に駆け寄り、首に飛びつき、一度だけ深く口づけた。
「生きてこれたのはお前のおかげだ」
じゃあな、と言って彼女は再び自分の馬へと飛び乗り、先を急ぐとばかりに自分から馬を走らせた。
リタリットはしばらくその様子を眺めていたが、大きく息を吸い込んでこう言い放った。
「帝都に住んじまえ! 二度と戻ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
向こうから「あははははははははは」というこれまた大きな笑い声が飛んでくる。
これが最後だ、ということは判っていた。
アスワドの背後には、リタリットと令嬢の荷物の幌馬車がある。
リタリットは彼に近づくと、拳固でこめかみをこづいて言った。
「戻ろうや、辺境領へ」
彼は大きくうなづき、返す。
「そうだな、帰ろう」