「――リタリット……
リタリットなのか?! お前は……」
「そうだと思うなら、そうなんでしょぉ?」
「その口調…… その声…… ラグネイデと同じだ」
「はぁっ!? あの母様と一緒ぉ?
それってどんな褒め言葉ですかぁ?」
「こら、リタ」
国王を睨みつけ、ぐい、と寄ろうとする彼女の襟をアスワドは掴んで引き戻す。
「何でだよスワド!
会ったらそのくらいのことしてもいいって、スワドが言ったじゃないか!」
「それでも、今回の交渉相手の一人だし、一応お前の父親だ。
お前が覚えがあるなら特にな」
「けっ」
彼女は肩を竦めた。
かつての「リタリット王女」を知っている者はその態度にぽかん、と口を開けた。
「何、そんな目で見てるんだよ!
七年も男の格好であちこち回ってりゃこんなんにもなるさ!」
「まあ確かにな」
ハリエットはそんなリタリットを腕を組んで見据えた。
「あの時の生き残り娘か」
「そうだよ。
あんた等に殺されかけた一人だ。
でもハリエットさん、あの馬鹿の異母兄貴を殺してくれてありがとさん。
命じてた声は聞いた。
聞こえてた。
ホントに、彼奴の声は耳障りだった」
「お前の声もよく響くね、リタリット王女」
ハリエットもまた、甘く低く声に熱を込めた。
少しだけその端がかすれ、引きつる。
「国王殿下、ラグネイデ妃は、確か歌姫だっだと聞くが」
アンネリアは記憶の引き出しから妾妃の件を取り上げる。
「そうだ。ラグネイデは、その頃のこの国一の歌姫だった。
とは言え、至上の歌姫というには、あまりにも癖が強かったが」
「ああそうだ。
母様の声はとてもいつも響いて、響きすぎて、耳からいつも離れなかった。
あああやだやだ。あのひとの声は、どんな時でも、いつでも、あのひとの気持ちがそのまんま入って、入って、アタシ等は、兄様とアタシは、凄く疲れたもんだ」
「何…… だと?」
国王は知らなかったと目を見開く。
リタリットは大きく手を振りながら天井を振り仰いだ。
「母様は何かと言っては言葉を歌った。
作られた訳でない旋律をいつも勝手に作っては、普通の女なら井戸端で声を潜めていう様なことも、アタシ等が居てもいつもいつも!
とっても響く、あの声で! そしてあの断末魔の声も!」
はあ、と大きく息をつく。
「そう、あの声が耳から離れない。
いつまで経っても、あたしの耳から離れないんだ。
そしてぐるぐると別の声が聞こえてくる。アタシを殺した奴に復讐してくれ、と。
そのためにやってきたって言うのに! あはは!
先にやられちまったんだから、こりゃ大笑い!」