嗚呼、という表情がハリエットの側に居るアイアンの顔からうかがえた。
「お前はずいぶん綺麗になったな、ハリイ」
「お前は相変わらず駄目男だ、アスワド。
お前、一体誰を連れている? きっちり言え」
美しい令嬢の口から流れるには、とても似つかわしくない言葉がつらつらとハリエットから漏れる。
だが相手の男と向かい合うその真剣な表情から、妙にそれが似つかわしくも取れる。
「そうだな。
まず俺はこの落とし前をつけなくてはならない。
辺境伯令嬢、よろしいか。
俺は一応貴女の領地で雇われている護衛騎士ということになっているが」
「承知。
その目立つ格好が入ってきていた時より、うちの領地から何かしらの動きがあったことは察していた。
して、現在はアスワド、だったな、どういう役回りをしている?」
アスワドは軽くアンネリアに会釈をする。
「俺は今回、七年分の護衛費用をこの国に請求にきた。
そのためには全くの手放しの傭兵では入ることはできないと思い、令嬢のお父上に問い合わせた。
そして期間限定で、準護衛騎士の役割につけてもらったのだが、それで宜しいか」
懐から手紙を出す。
アンネリアは封印を確認し、中身を取り出す。
一瞬くん、と鼻を鳴らす。
「良し。確かにこれは父上からの書状だ」
そう言うと彼女は中身を開き、文字に目を走らす。
少しの間、緊張した空気が広がる。
やがて全てに目を通したアンネリアは、つと立ち上がると、「連れ」の子供の前にしゃがんだ。
「失礼ですが、フードを取って、その前髪を開いてくれませんか」
子供に見えた。
だが違う。ただとても痩せているだけの――少女だ、と彼女は近づいて気付いた。
「……」
「お願いします」
その言葉に、少女は顔を覆う長い、乾いた金髪を開いた。
「!」
がっ、とその時、国王が立ち上がった。
「お静かに」
「……いや、すまん。だが…… 頼む、もっと近くで、その少女の顔を見せてくれ」
「貴方!」
王妃が叫ぶ。
その声に対し、少女は目を眇め、嫌そうな顔を向ける。
「見たいなら見ればいい」
ぶん、と彼女は両手で髪をかき上げ後に回し、フードも飛ばした。
「お久しぶりでぇす! お父上。
七年も放っておいてくれてありがとうです!」
ははっ、という笑い声を立てて、少女は国王に向かい、ひっくり返った様な声を上げた。
ああ、と貴族達は覚えのあるそれに気付く。
「……ラグネイデ妃と同じ、あの声だ……」