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第7話 彼の手配理由

 まずあの事件に関してですが。

 果たしてこちらへはどの様に報告されているでしょうか?

 イスパーシャ王国での「悲しい事故」。

 そう記録されているのではないでしょうか。

 急な火災で第一王子と第一王女が妾妃と共に死亡、と。

 ところが実際はそうではない訳です。

 はい、傭兵集団の登場とあいなる訳です。

 なお、この場合の傭兵は二種類あります。

 自分の様に、常用される傭兵。

 これはイスパーシャでは基本一年契約です。

 無論、碌な仕事もしない者は解雇されますが。

 もう一つは、辺境領を海を飛び越えて大陸に行って傭兵集団から人員を一つの仕事単位で借りるということです。

 で、自分はその時、契約傭兵の同僚からその話を聞いてしまったんですな。

 国外の傭兵には様々な種類があるらしいんですが、この場合は砂漠の国――国、とまあイスパーシャでは理解していた様ですが、まあ実際は豪族領土です。

 シェラジア、という豪族は、子供を買い求めたりさらったりして、傭兵ないしは殺し屋を養成しています。

 これは各地で、自国自領の民を血に染めたくない、証拠を残したくない、という国主領主には都合が良い存在なのですよ。

 特にこの子供の傭兵の場合。

 彼等は使い捨てが基本です。

 本当に優秀な子供は、そのまま更に一流の刺客に育てる様ですが、まあそういう者は滅多におりません。

 仕事をさせて、終わったらそのまま殺されます。

 それで逃げられるなら、まあそれはそれで良い、としているのでしょう。

 で。

 自分の同僚は、この子供達を指揮したのだそうです。

 まあ傭兵ですから。

 殺せと言われれば誰でも殺しますよ。

 雇われてそれで食っている訳ですから。

 ただ同僚は、当初違う命令を与えられていた訳ですよ。


「逃亡した凶暴な犯罪者を離宮に追い詰めた、それがどんな姿をしていたとしても殺してしまえ」


 それが命令なら、まあ普通動きますよね。

 ところが彼曰くのガキ達と飛び込んだところ、そこに居たのは使用人と妾妃、それに王子王女。

 ガキの傭兵達は、言われたことを素直にやったということです。

 彼はさすがにその様子を呆然と見ているしかできなかった、ということです。

 どう見てもただの使用人――を、子供達があっさり首筋を綺麗にかっ切ったりして次々に殺していく様は――まあ、通常の傭兵からしたら、「いや、違うだろ」ですね。

 傭兵には傭兵なりのモラルがありますから。

 自分は盗賊ではない。

 そんなものになりたくないから傭兵になった。

 そういう者も結構居ます。

 まあ命令を受けたんだから、という自分への言い訳が立つ、という意味もありますがね。

 見ていて何かもう、身震いがしたそうですよ。

 ただの戦争に使われる傭兵のつもりでいたそうです。

 こんな風に、盗賊の真似をするためじゃない、と。

 奴はそれからしばらくして気持ちを病んだらしく、辞めていった様なんですが――さて、実際はどうだか。

 少なくとも、俺にわざわざ漏らしていく様な奴は、まあ生きてはいないでしょう。

 そして漏らされた俺が今度は、何やらイスパーシャで機密を盗んで逃げた、ということにされました。

 つまりは、それが俺の手配理由ですよ。

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