俺達が宴の会場に入って行くと、既に沢山の客がそこは居た。
どうやら貴族という貴族が一同に集められているらしい。大広間というだけあって、やたらときらきらしい豪華な装飾と、ひだの沢山ついた布が天井から床まであれこれと付けられているが、まあそのきらきらしさが来席者の服装にも良く出ていた。
ともかく男は決して実用的でないつやつやした生地でできたズボンを履き、しゅっとした濃い色の上着の下は真っ白でぱきぱきに折れそうなくらいに型をつけたシャツ。そこにまた凝った結び方のタイを付けて。
ただ、その襟の作りとか上着やタイの色は異なっているが、基本的には形は全部一緒だった。
女は一方でまあ色とりどりだった。
肩が出るすれすれまで襟を開けてやたらひらひらした襟、胸元もぎりぎりまで開けている。
まあこんな服、俺等のところで着ていたら確実に風邪引いてそのまま肺病になる。
胸元を強調し、腰を締め、そして広がるスカート。
帝都で聞いたが、その下には何枚も何枚も下着を付けているそうだ。
「重そうだ」
ぼそ、とバルバラはつぶやいた。
そういう俺達と言えば、まあ俺は護衛騎士の、一応軍服みたいなものだ。
礼装という概念が殆ど俺達のところには無い。祭りは気楽な格好だし、狩りも戦闘も、ベストやズボンの色は揃えるが、それはあくまで自軍と他軍の違いをつける程度で、後は普段着に近い。
本当にこれでいいのですか? と直前まで王宮の人々に聞かれた。
お貸し致しますとも。
「必要無い」というバルバラの言葉で全て拒否したが。
紹介された時の彼等の表情ときたら。
王は微妙な雰囲気の中、それでもともかく宣言した。
「このたびザクセット辺境伯令嬢バルバラ殿が、我がチェリ王家の第一王子セインの婚約者として到着してくれたことの祝いである。皆存分に楽しむがいい」
この場にバルバラと一緒にやってきたのは、俺と、女達の情報を収集するために女官の様な立場としてやってきたゼムリャの二人だけだった。
ゼムリャはバルバラより十歳上、「お付き」として良い頃の年齢だ。
そして実に機敏に動く。
頭もいい。
暗殺技術にも優れている。
貴婦人的なことに関しては知らない。
そもそもバルバラにしてもその類いは刺繍程度しかできないはずだ。
後の「表」は、離れを俺達の住みよい様に改造している最中だった。
バルバラもゼムリャも祭りの時の晴れ着を着ていた。
厚手の生地をまっすぐ裁って縫い合わせ、襟や袖や裾に細かい刺繍を入れるものだ。
これは俺達の辺りに限らないが、布地自体が貴重なところは、大概真っ直ぐに布を裁つ。
俺等のシャツにしたってそうだ。
だからこそ俺も昔、自分の服を、二人分のものから作り上げることができたのだ。俺程度の裁縫技術でも。
確かセルーメさんが言っていた、乾燥した地域の部族もそういう形で作るとか何とか。
要するに、今目の前に居るふわふわした「ドレス」の様に、布地をややこしく裁って縫って身体のサイズに合わせて、ということをやっている地方は実のところそう多くは無いのだ。
だがここに居る連中は、俺等を見てざわついている。
女達は扇を露骨に開いて、その下でお互い何やに言い合っている。
こういう連中の相手のために、ゼムリャを連れてきたのだ。