チェリ王国に行くには船が速い。
天然の檻となっている森林や山地を越えるよりは、一度東の海に出た後、辺境伯領とチェリの国境となっている河を上るのが、沢山の人と物を運ぶには良い。
荷はともかく、人だ。
今回は調査目的なので、「裏」の者達を王都に着く前にチェリ国内にある程度散らす必要があった。
チェリでも目立ちにくい小柄な者が中心だ。
俺は特別だが、そうでなくとも、線の細いチェリの国民に比べると俺達は目立つ。
背も何だが、肩幅、筋肉といったものが。
例えば俺が初めて領主様の館に行った時に出会った小柄な声の通る男。
彼も連絡員として、河口近くで下ろされた一人だ。
この旅には、こういう王都に着かない要員の馬や荷物が多かった。
王都付近の港に着いた時には、船の倉庫は殆ど空っぽと言っていい程だった。
あとは「表」の護衛騎士や女達が王都まで馬に乗って行く。
変わった身なりだと、道中じろじろ見られたり、宿場では足元を見られもした。
宿屋ではあえて身分を言ってもいない。北の人間に対する一般的な反応が見たい、というバルバラの意思が込められていた。
なお我らがお嬢さんは皆にこう言い出した。
「あ、喧嘩は駄目だから」
すると皆口を曲げて「うへぇ」だの「何でですかい」とか言い出した。
「いや、全く手を出すな、とは言わない。だけど大概お前等がここの連中とやりあったら勝つよな?」
確かに、そうだな、とそれぞれ言い合う。
「どうにも怒りが静まらない時には一人二人程度で動いて。そうでなかったら私自身の手が出ると思って」
「待ってお嬢それは困る」
ということで、道中はなるべく血の気の荒い連中も穏やかにやってきた。
王都に入る門では、なかなか警戒されたが、さすがに王室からの手紙を見せたらすんなり入れた。
ただうさん臭そうな目で見られたことは確かだ。
そして宮殿の門に着いた時には、既に歓迎の用意と、官僚らしい者が出迎えてきた。
国王は直接外に出てきて、俺達を出迎えた。
その後に、王の直接の家族が控えている。
美しい衣装を着た、王妃と夫人といった女六人。そしてそれぞれの子供達。一番上が俺と一緒くらいだろうか。
女子が多い。
男子は三人。
一番上が、今度バルバラの「婚約者」ということになっているセイン王子の様だ。
何となくふてくされている様に見えるのは気のせいだろうか。
その下の二人の王子はまだまだ子供っぽい。
そして珍しい格好だか馬の装備だかに目をとられ、きょろきょろしている。
王女達は皆大人しい。
整然と父王の挨拶を聞いて待っている。
「さあさあ、用意した離れに案内させていただこう。明日は大広間で歓迎のパーティを開くことになっている」
「ありがとう。だが華美なもてなしは不要と返事したはずだが」
なる程、バルバラは王に対して、もう最初からこの口調で通すことに決めたらしい。
わくわくしている王子王女、そんな子供達をたしなめたがっている側妃達。
その中で、正妃と第三側妃の表情は固く――
セイン王子の妹らしい王女は微妙な表情で俺達を見ていることに気付いた。